ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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18 運命の人

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気を失っていた使用人達を起こす前に、清人さんは外に出るように言われた。
清人さんの冷たく人を映す漆黒の瞳は、今は濡れて崩れて跡形もない。
人間味をどこかに置き忘れて来た冷たいガラス人形のような清人さんは、今はお伽の国の住人。
悪魔に騙され落ちぶれた王子のような頼りなさは、隙がありすぎる。

俺でも思わず助けたくなるくらいに、弱りきっていて天敵に囲まれた小動物のように怯えて見える。
遥馬さんが、軽く溜め息をついただけで血の気が引いて顔色まで悪くなってしまった。

それでも清人さんは、陽太さんの指示に部屋から一度は出ていこうとしたんだが足に力が入らないようで立ち上がれない。
ボロボロ涙を流したまま、固まってしまった。
陽太さんは、「お前は相変わらず弱いな」とボヤいてヤマに肩を貸してやるようにうながす。

陽太さんは二人が部屋から出ていってから、気を失っていた使用人を起こして食べかけの料理を片付けておくように指示していた。

今も、屋敷の廊下をヨロヨロと足元が覚束ない清人さんに肩を貸してヤマが先頭を歩いている。
その後ろは俺と陽太さんで、遥馬さんは最後をとぼとぼ浮かない顔のままついてきていた。


「あの、陽太さん。
もしかして、遥馬さんは・・・」


出産間近のような膨らみはないけれど、俺の予想を聞いて貰うために話し掛けた。
陽太さんは、おっと少し驚いた顔をしてから表情を和らげる。
それ以上言わなくてもニュアンスで伝わったみたいだ。
ポンッと軽く肩を叩かれ、顔を寄せてひそひそ。


「多分だけどな。
ぬか喜びさせても悪いし、今はシーッな?」


口の前で人差し指を立て、いたずらを仕組む子どものように笑う。
廊下ですれ違った使用人に、それの検査薬を部屋に持ってくるよう他の三人には聞こえないように依頼。
それを見ているだけで、俺はもしかしてと思っていた遥馬さんの妊娠が現実味を帯びてきて自然とにやけてしまう。 

清人さん、絶対に喜ぶぞ。
すぐに復活、いや、バージョンアップするかも。

ニヤニヤと清人さんの丸まった背中を見ていたら、陽太さんから「コラッ」と小さい声で怒られてしまった。
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