ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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18 運命の人

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「ちょ、あ、兄貴?」


オロッとヤマが狼狽えたので、思い悩む遥馬さんからそちらに目を向け息をのんだ。
ヤマの腕によりかかり、なんとか清人さんは立ち上がっていたんだが。
その表情が問題だ。
ハラハラ無言で涙を流す清人さんが、美しすぎる。

絵画として永遠に保管したくなる、傷つけられた気高いαの無防備な泣き顔。
心の弱さが滲み出た隙のある色気が匂い立つ。
それを支える弟ヤマの思い詰めた表情にも、愁いを覚える。
椅子を二人がかりでお越しにきた女性の使用人は、その姿をまともに見てしまい足元でバタバタと気を失い倒れた。
フェロモン無しでこの威力。
なんて兄弟だ。

俺も椅子から落ちそうになって、テーブルに手を着いた。
この屋敷で長年働く使用人も、一年以上ここで暮らす俺も。
運命の番から生まれた姉弟の、他のαと別格な恵まれた外見には慣れていたが。

この、普段からは考えられない儚げなツーショットは免疫が全く無い。
唯我独尊、いや、遥馬さん以外には冷ややかな態度しか出さない清人さんの泣き顔なんて反則だ。
その威力に精神が圧迫され、気を失うのもわかる。
陽太さんの後ろで控えていた料理人も、続いてバタリと倒れ。
食堂は、遥馬さんの一言で収集のつかない事態に陥った。


「おい、兄貴、しっかりしろよ?」

「ハルに、嫌わ・・・」


清人さんは、わざわざ口に出して更に深手を負う。
言葉が途切れ、魂も途切れそうだ。
ブルブル身体を震わせ、せっかく立ち上がったのに膝から崩れてしまう。
ヤマは、清人さんに肩を貸して自分の座っていた椅子に座らせると倒れた使用人の頬を軽く叩きにもどった。

俺は、打ちのめされた清人さんの泣き顔から目が離せない。
清人さんまで、人前で泣くのか。
しかも、清人さんにとっては興味の対象にもなってないようなΩの俺までいるのに。
αとしてのプライドより、番の言葉が優先。
全然目にも意識にも周りのことが入っていない。
清人さんの世界にいるのは、やっぱり遥馬さんだけなんだな。
椅子に凭れ、こちらを見ない遥馬さんの背中を絶望にうちひしがれた泣き顔で見ている清人さん。

嫌いになりそうだと言われただけでこれだと、嫌いだと断定されたら本当に死ぬんじゃないか?
いや、このまま遥馬さんが清人さんを無視していたら、死ぬな。
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