ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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どうしたものかと、途方にくれている俺と樟葉に、道成さんが声をかけた。


「あのね、αに求愛給餌特化型がいるのは、絶対に口外しないであげてね」


道成さんの表情は、気遣いと優しさに満ちていて、声も変わらず穏やかなままだった。
息子を、Ωに変えられてしまった相手への恨みも。
息子が、Ωに変わってしまったことへの後悔も。
そこには、感じられない。

こんなにどっしりと構える道成さんも、息子と一緒に楽しんでいる頼子さんも、強いな。
Ωに変わる条件を、息子も揃えてしまったんだとしても、だ。
相手に関わらなければ、βとして生きていけたんだからな。

いくら時間が経過しても、何かしら相手に思うことはあるだろう。

だからこそ、道成さんから相手を庇う言葉を聞いて二人の見方が変わった。
いや、やっと気づくことが出来た。
この人達は、尊敬すべき大人だ。

自分がΩだとわかってから、死にそうな顔をしていた三枝が、今はこんなに楽しそうに受け入れている。

深刻にしかならない告知を笑い飛ばし、なってしまった過程をロマンチックだと一緒にはしゃぎ、三枝が今後もくよくよ悩まなくても良いように全力でこの場を盛り上げているのがわかってしまった。

変異種Ωとわかってから、いつかくるこの日をどう迎えるか。
試行錯誤を繰り返し、悩み、迷い、たどり着いたのがこの三枝の笑顔なんだ。

俺は、泣きそうになるのをぐっとこらえ、「わかりました」と頷いた。
樟葉も遅れて頷く。

当事者である道成さん達が納得しているのなら、わざわざ俺達が公表することじゃないしな。
もしかすると、今後、第二、第三の三枝が出てしまうかも知れないが、強制じゃないのならそれこそ他人の俺達が関わることじゃないだろう。

変異種Ωに変えてしまえるαがいる。
こんなことを知られたら、Ωの人権解放運動の代わりにαの排斥運動が始まりそうだ。


「え、なんで言ったらあかんの?
めっちゃ凄いことやのに」


その被害を、実際に被った本人の耳にも入っていたらしい。
三枝は、道成さんに不思議そうに尋ねる。
明らかに、「凄いこと」が「素晴らしいこと」のニュアンスを含んでいるから目眩がしそうだ。

三枝は、ヤマ以上のお花畑を頭に広げているらしい。
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