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萩野に手を借り、一旦ソファーに座らされた三枝。
足に力が入らないのか、ヨロヨロと足取りが覚束ない。
不安がたっぷり塗りたくられた顔も、青白く固い。
混乱し過ぎて、支離滅裂、考えていることが全て口から漏れていた。


「あかん、頭が追い付かへん、俺がΩやなんて、考えたことなかった・・・俺、ほんまにΩなんや。
いつなったん?どうやってなったん?小説の世界に迷いこんでんの?
いやいや、夢やないのに小説の世界が有りとかないし・・・あぁ、ほんまにΩなんかぁ・・・
俺、これからどうすんの?なんか、変わるの?
あぁ、なんも頭に浮かばへん・・・」


エンドレスに続きそうな独り言。
こんなときこそ、人間、本音がポロッと出てくるものだが。
三枝の口から、「なんで、Ωなんかに」「Ωなんて、嫌だ」といったΩ自体を否定する言葉は出てこない。

咄嗟に、俺と樟葉に気を使うような余裕は無いしな。
三枝は、本当にΩへの偏見がないんだろうな。
俺も驚いているのは同じなんだが、こんなときでも三枝らしい独り言を聞いていたら不謹慎だが少し嬉しくなった。

Ωへの偏見は根強いし、もし、生まれる前にバース性を自分で選べるならαやβを選ぶに決まっている。
それは当たり前のことだが、友達の三枝からΩを否定するようなことを言われたら、俺は他の誰かに何を言われるよりも深く傷付いていただろう。

俺は、ローテーブル上に残されていた空のコップに水を注ぎ三枝の目の前に置き直した。
樟葉は、三枝とローテーブルの間に小さな身体を滑り込ませると。
膝を折り、黙ってその左手を両手で握り締め、三枝が落ち着くのを待った。
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