可愛いΩのナカセカタ

番外編

進路 １

　３月。
　自分は病室のベットに身体を横たえたまま、心の中でおめでとうと疾風の門出、今日の中学卒業を祝っていた。執刀日を決めたときからこうなるとわかっていたんだが、いざ当日を迎えると見に行きたかったなぁと惜しむ気持ちが止められない。
　入院してからジワジワその気持ちが漏れていたんだろうな。毎日顔を出してくれている輝良から、「俺が代わりに写真と動画を撮影して来てやろうか」とこちらからは何も言っていないのに察して申し出てくれた。この件は、いつも輝良を管理監督してくれている栄寿さんまで乗り気で驚いたけど。ただの口約束だったのに、翌日には手配が出来ましたと報告されたしな。

「取材ということで学校の許可も取りました。保護者席よりもっと近くで撮れますよ」
「流石だなっ、栄寿っ」
「言っておきますが、本当に取材もしといてください。次回作の学園モノに卒業式を絡めるために」
「なぁにぃっ、可愛い弟のために奮闘する俺へのナイスアシスト、ベストポジション確保のためじゃなかったのかーーーっ
　この鬼編集めっ」
「取材で一日どうしても潰れますが、これは良い作品を生むにはどうしても必要なのだと編集長に直訴した結果、直々に印刷所へ交渉までして頂けて締切がなんと２日も延びました。
　どうせ、当日ここで卒業式祝いだーっとはしゃぐつもりでしょう」
「流石敏腕編集、栄樹様っ、万歳っ」
「俺への万歳は不要ですから、今から帰ってプロット見直し、書けるとこから書いていただきますよ」
「ひぃっっ」

　うん、今思い出しても二人のやり取りは面白かったな。自分の丸く突き出たお腹の内側から、ポコポコまるで同意するように蹴られた。どこまで皮膚が伸びるのかと心配なくらい大きくなったお腹。この中に、確かに存在している命があるなんて不思議だ。
　今日の卒業式と明日の高校合格発表。その後に、この子はここから出てくるんだよな。遂にと待ちわびてきた気持ちと、無事に生まれてくるかなと言う不安。それに、こんな自分に親が務まるのだろうか、育てられるのだろうかと言う心配。色々混じっているけど、疾風の子どもを授かれたことが何より嬉しいから幸せだ。

　去年の８月。体調が優れず、経過観察の通院でお世話になっていた病院を受診したら妊娠３ヶ月ですねと言われた。初めは何を言われたのか理解できず、同席していた疾風の声を上げてはしゃぐ姿を見てジワジワ実感。帰り道で出産準備の雑誌を一冊買って、二人で一緒に勉強したのが随分昔のような、ついさっきのような。
　無意識にお腹を擦って目を閉じていたら、眠っていたらしい。起きると疾風も輝良も来ていて、ご飯のあとに写真や動画を一緒に見ることができた。