可愛いΩのナカセカタ

三日月

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番外編

酒の肴 3

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「んー、これは・・・なんだ?」


 由良は、ぼんやりと手元のシールを眺めているところだった。シートに横長の長方形が六枚並んだシールのうち、四枚の書き損じに、五枚目でようやくはみ出さずに書いた「由良」の文字が見える。由良は、政治家排出で名高い椿頭家で育ち、輝良のバカと同じα教育を途中まで受けていたからな。同世代のΩに比べて教養があるし、文字も綺麗だ。
 筆跡にさえ平凡でなんの特徴も現れないように訓練している俺と比べると、優しい人格が透けて見える。

 だが、今夜の由良の文字は線がぶれ、隙間だらけ。「由」の字が「田」に見える。


「どうかした?」


 背後から近づいて肩越しに手元と由良の顔を覗く。呼吸は平常に近く、コロコロと変わっていた表情も素に近い・・・酔いが醒めてきたか?それは、つまらないな。
 ガジガジ噛まれた首や舐め回された髪を撫で付けフッと息を吐いた。

 うん、つまらないな。


「この、シール、自分が、書いたみたいなんだが・・・」


 思考がまだ覚束ない由良は、たどたどしく自分のおかれた状況を整理しようとしている。「そうだな」と軽く肯定してやりながら、テーブルの上に残っていた由良のグラスを手にして一口含んだ。
 トントンと、肩を指でつつく。シールを凝視していた由良が、素直に「ん?」と首を曲げてこちらを振り向いたのでそのまま唇を奪い酒を注いだ。緩んだ唇は、容易く酒を受け入れる。突然の口移しにさすがに由良も驚いていたが、コクン、コクンと注がれるだけ飲み込んでいく動作に躊躇いはなかった。抱いた後の蕩けた由良への水分補給は、口移しが多いしな。

 
「・・・んん、な、なんだ??」

「旨い?」


 由良の問いには答えず、こちらから尋ねる。由良は、瞬きを数度繰り返した後恥ずかしそうに頷いた。ほんのりと、顔に赤みが戻ってきている。


「由良、もっと飲んで?
 二人揃って初めての飲酒記念だろ?」


 俺にとっては、全く初めてじゃないけどな。萩野の仕事に支障がでないよう、酒にも毒にもある程度の免疫はつけている。こんな度数も低い量産されている発泡酒では酔いようがない。
 シールとペンを預かり、グラスを持たせる。それから俺のグラスも手繰り寄せ、由良のグラスに合わせて鳴らし「乾杯」と告げた。
 このやりとり、二回目だけどな。由良の中ではリセットされているらしい。グラスの中で揺れる水面を眺める瞳が輝きを取り戻した。


「そ、そうだったな!
 ふふふ、嬉しいなぁ。
 疾風と同じだ」
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