422 / 461
番外編
酒の肴 3
しおりを挟む
「んー、これは・・・なんだ?」
由良は、ぼんやりと手元のシールを眺めているところだった。シートに横長の長方形が六枚並んだシールのうち、四枚の書き損じに、五枚目でようやくはみ出さずに書いた「由良」の文字が見える。由良は、政治家排出で名高い椿頭家で育ち、輝良のバカと同じα教育を途中まで受けていたからな。同世代のΩに比べて教養があるし、文字も綺麗だ。
筆跡にさえ平凡でなんの特徴も現れないように訓練している俺と比べると、優しい人格が透けて見える。
だが、今夜の由良の文字は線がぶれ、隙間だらけ。「由」の字が「田」に見える。
「どうかした?」
背後から近づいて肩越しに手元と由良の顔を覗く。呼吸は平常に近く、コロコロと変わっていた表情も素に近い・・・酔いが醒めてきたか?それは、つまらないな。
ガジガジ噛まれた首や舐め回された髪を撫で付けフッと息を吐いた。
うん、つまらないな。
「この、シール、自分が、書いたみたいなんだが・・・」
思考がまだ覚束ない由良は、たどたどしく自分のおかれた状況を整理しようとしている。「そうだな」と軽く肯定してやりながら、テーブルの上に残っていた由良のグラスを手にして一口含んだ。
トントンと、肩を指でつつく。シールを凝視していた由良が、素直に「ん?」と首を曲げてこちらを振り向いたのでそのまま唇を奪い酒を注いだ。緩んだ唇は、容易く酒を受け入れる。突然の口移しにさすがに由良も驚いていたが、コクン、コクンと注がれるだけ飲み込んでいく動作に躊躇いはなかった。抱いた後の蕩けた由良への水分補給は、口移しが多いしな。
「・・・んん、な、なんだ??」
「旨い?」
由良の問いには答えず、こちらから尋ねる。由良は、瞬きを数度繰り返した後恥ずかしそうに頷いた。ほんのりと、顔に赤みが戻ってきている。
「由良、もっと飲んで?
二人揃って初めての飲酒記念だろ?」
俺にとっては、全く初めてじゃないけどな。萩野の仕事に支障がでないよう、酒にも毒にもある程度の免疫はつけている。こんな度数も低い量産されている発泡酒では酔いようがない。
シールとペンを預かり、グラスを持たせる。それから俺のグラスも手繰り寄せ、由良のグラスに合わせて鳴らし「乾杯」と告げた。
このやりとり、二回目だけどな。由良の中ではリセットされているらしい。グラスの中で揺れる水面を眺める瞳が輝きを取り戻した。
「そ、そうだったな!
ふふふ、嬉しいなぁ。
疾風と同じだ」
由良は、ぼんやりと手元のシールを眺めているところだった。シートに横長の長方形が六枚並んだシールのうち、四枚の書き損じに、五枚目でようやくはみ出さずに書いた「由良」の文字が見える。由良は、政治家排出で名高い椿頭家で育ち、輝良のバカと同じα教育を途中まで受けていたからな。同世代のΩに比べて教養があるし、文字も綺麗だ。
筆跡にさえ平凡でなんの特徴も現れないように訓練している俺と比べると、優しい人格が透けて見える。
だが、今夜の由良の文字は線がぶれ、隙間だらけ。「由」の字が「田」に見える。
「どうかした?」
背後から近づいて肩越しに手元と由良の顔を覗く。呼吸は平常に近く、コロコロと変わっていた表情も素に近い・・・酔いが醒めてきたか?それは、つまらないな。
ガジガジ噛まれた首や舐め回された髪を撫で付けフッと息を吐いた。
うん、つまらないな。
「この、シール、自分が、書いたみたいなんだが・・・」
思考がまだ覚束ない由良は、たどたどしく自分のおかれた状況を整理しようとしている。「そうだな」と軽く肯定してやりながら、テーブルの上に残っていた由良のグラスを手にして一口含んだ。
トントンと、肩を指でつつく。シールを凝視していた由良が、素直に「ん?」と首を曲げてこちらを振り向いたのでそのまま唇を奪い酒を注いだ。緩んだ唇は、容易く酒を受け入れる。突然の口移しにさすがに由良も驚いていたが、コクン、コクンと注がれるだけ飲み込んでいく動作に躊躇いはなかった。抱いた後の蕩けた由良への水分補給は、口移しが多いしな。
「・・・んん、な、なんだ??」
「旨い?」
由良の問いには答えず、こちらから尋ねる。由良は、瞬きを数度繰り返した後恥ずかしそうに頷いた。ほんのりと、顔に赤みが戻ってきている。
「由良、もっと飲んで?
二人揃って初めての飲酒記念だろ?」
俺にとっては、全く初めてじゃないけどな。萩野の仕事に支障がでないよう、酒にも毒にもある程度の免疫はつけている。こんな度数も低い量産されている発泡酒では酔いようがない。
シールとペンを預かり、グラスを持たせる。それから俺のグラスも手繰り寄せ、由良のグラスに合わせて鳴らし「乾杯」と告げた。
このやりとり、二回目だけどな。由良の中ではリセットされているらしい。グラスの中で揺れる水面を眺める瞳が輝きを取り戻した。
「そ、そうだったな!
ふふふ、嬉しいなぁ。
疾風と同じだ」
0
お気に入りに追加
709
あなたにおすすめの小説
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる