可愛いΩのナカセカタ

番外編

真似っこ、お揃い、あのひとと ８

　仕事帰りの漆黒のスーツに身を包み、長い手足を持て余しながら椅子に腰掛ける疾風様。周りには、僕達二人はどう映っているのでしょうか。学校帰りの制服姿の僕とでは、知り合いくらいにしか思われてないでしょうね。とても親子には見えませんし、年齢を聞いたらもっと信じてもらえないでしょう。

　僕も一般的にはモテますし、αの中でも優秀な部類に入るとは思うんですが。
　格が違いすぎる疾風様が近くにいすぎて、そんな疾風様にメロメロな由良を見すぎて、風音のように自分の能力に天狗になる暇もありません。しかも、疾風様に言わせれば、疾風様の上なんて萩野の中だけでもゴロゴロいるそうです。

　萩野の遺伝子は、日の当たらない場所でどんな進化をしたのか・・・まぁ、それも含めて、椿頭家にはイロイロナモノが集まっていますからね。お爺様から家督を譲って頂く日が楽しみです。


「あちら側に、呑まれ過ぎるなよ？」


　並んで二人だけで歩く、とても貴重な帰り道。あちら側から、由良のためにあっさりと抜けた疾風様が街灯の下でうっすら嗤う。僕を心配して、というよりも、それで由良を泣かせるなということでしょうね。冷たく光る銀色の瞳に頷く。


「はい、気を付けます」


　椿頭の姓は、由良の旧姓でもあります。あちら側に呑まれそうになったとき、何かに迷いそうになったとき、例え周りに誰もいなくても自分にはその名前が残っています。椿頭と名乗るだけで、由良の息子でもあり弟にもなった自分のことを誇りに出来る生き方しか出来ません。僕には、お爺様の血も疾風様の血も流れていますが、由良の血も流れていますからね。