可愛いΩのナカセカタ

三日月

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 疾風の腕が解かれたので、その場で姿勢を立て直した。首をパキパキ鳴らしながら軽く回し、妙なことを言い出した青嵐に向き直る。
 何を言い出すかと思えば、柳原君のことか?柳原君は、ファームに一番新しく入ってきたΩの従業員だ。一度は花屋さんに就職したらしいが、諸事情により辞めて転職先を探していた。Ωの諸事情による転職はよくあることだし、自分も理由を深くは聞いていない。二十代なのに、高校生と見間違えるくらい華奢で可愛らしい。

 自分としては、柳原君こそ一番疾風に合わせたくないΩだ。
 
 柳原君は、経理も出来るし、畑作業もあるファームで働くには勿体ないからな。アルバイトで入って、他の会社を探したらどうかと面接で話してみたんだが「社員希望ですっ」と強く言われた。大きな栗色の瞳が輝いていて、身体中から溢れる熱意に圧倒されての社員採用。
 半年は実習期間という形で、接客中心のパートやアルバイトには頼まない畑作業にも従事して貰った。野菜を一輪車で運ぶのは苦手だけれど、一ヶ月後には野菜の選別や梱包方法は完璧に覚えてくれていた。
 畑の空きスペースに植えていた花を、柳原君は空き時間にファームのいろんな場所に生けてくれて、それを気に入ったお客さんが花を買いたいと花束やアレンジメントの商品化にも繋げてくれた。
 とても気が回る優しい子だ。

 自分はこんな外見だから、αに間違われることには慣れているんだが。先週本採用になった柳原君から、番になって欲しいと申し込まれて驚いた。流石に、番をαの立場で申し込まれたことは無かったからな。
 Ωから申し出る勇気も解るし、死にそうなくらい緊張している柳原君は今にも倒れそうだったんだが。自分はΩで番持ちだと伝えるしかなかった。

 この直後に問題になったのは、自分の傷だらけのうなじだ。番持ちΩの証拠になる歯形が無いと指摘され、嘘までつかれて断られたと酷く傷付いた柳原君は泣き出してしまった。閉店後のロッカールームに、騒ぎを聞き付けた青嵐や他のスタッフが集まってくれて、説明も変わってくれて、なんとかわかってくれたんだが・・・ん、まぁ、確かに最近の出来事としては、それ以上に大きなことはないな。だから、青嵐はこれを話したのか?


「由良、お前今更抱く側に回る気か?」

「バカっ、そんなわけ無いだろうっ」


 昨日だって、疾風に抱かれていたんだから、それは自分以上に知っているはずじゃないかっ!からかうなと睨んで、その視線の先の疾風が全然哂ってないことに戸惑いを感じる。
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