可愛いΩのナカセカタ

三日月

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 食事に関しては、パンまで一口ずつちぎっては口元まで運ばれる念のいれよう。毎回食べ終わる頃には、恥ずかしくて堪らなくなる。二人きりとはいえ、今まで誰にもこんなことをされたことがなかったし、その相手が疾風だから気持ちが追い付かないんだ。
 気を付けていても、疾風の指に口が触れてしまうことがあって。そんなとき、疾風は。「俺を食べるのはまだ早いだろう?」・・・それは、それは、目を慌てて伏せても、残像だけで胸が詰まる笑顔がついてくる。

 病院での食事は、週末になると翌週分の食事を毎食3種から選べるシステムになっていたから、自分はメニュー表からパンをわざわざ避けている、のに。なぜか、三日に一度はパンが出てくる。これは、疾風が後から変更をしているに違いない・・・そうわかってはいるんだが・・・こんなに甘い疾風は、病院限定かもしれないと思うと恥ずかしいのに惜しくて。そのままにしてしまう狡い自分がいる。

 一人で食事が出来るようになった日に、疾風に自分の食事を一緒に摂るよう勧めたんだが、無言の笑みに諦めた。病院が気を利かせて、疾風用に温かい菜食の食事を用意してくれているが、自分が食べ終わってからしか疾風は食べないのでいつも冷たくなっている。そのせいか、疾風は毎回半分も食べずに残すんだ。家ではおかわりもする疾風が残すなんて、体調も心配だ。疾風は、「仕事も入ってないし、ろくに動かないからこれぐらいで良いんだ。それに、由良の飯に比べたら不味い」とこんなときでも自分に気を使ってくれている。
 自分が気を抜いていたせいで、捕まって、怪我をして、入院までして。疾風には、心配や迷惑ばかりかけてしまっているな。


「じゃ、由良。
 薬飲もうな?」


 自分の口に、デザートに用意されていたバナナの最後の一口を入れ終わると疾風は薬の準備を始めた。モグモグ食べていたバナナが、ヒクンとひきつった喉に詰まりそうになる。そんな自分を、ニヤニヤ嗤って見る疾風は。まるで、小さないじめっ子のように無邪気で意地悪だ。
 疾風は、薬袋から抗生物質や痛み止め、処方された薬を取りだし、シートから掌に出して数を確認し終えると。椅子から立ち上がり、ベットに入ってきた。
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