可愛いΩのナカセカタ

184 Ω

　その凶器から逃げ場がなく、怯え、ひきつる自分の目の前で。芹沢は、右手の爪先をカチカチ合わせてわざとらしく音を鳴らしながら見せびらかしてくる。この鋭い爪でいつでも殺れるのだと、わざわざ胸の薄皮を傷つけ血の線を描き、自分がその度に逃げようとするもがくのを楽しんでいた。

　そして、不意に腕を宙に振り上げると、自分の胸に5本の指をグサリと突き立てた。なんの抵抗もなく、ズブズブと爪が肉の海に沈む。押し付けられる激痛に、喉の奥から絞り出した悲鳴は拘束具のせいで堪えることもできない。
　自分の反応に気を良くした芹沢が、ギチギチ手を動かし、胸に横線を深々と刻みながら声を上げて嗤いだす。甲高い声が、大音量の動画より耳に障った。


｢あははははーーーっ、俺、親切だろぉ？｣


　なんで、今更、こんな男がっ！久しぶりの痛みに、あった筈の耐性が失われていることを知る。アンダーグラウンドなら、これくらい、こんな痛みくらい、なんでもなかったのに。

　爪についた血を床に払う芹沢。痛みに呻き続けている自分を不思議に思ったらしい。無理矢理顎を爪で挟み顔を上げさせると、涙で崩れた自分に失笑した。