例えβに生まれても

三日月

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36 計略の王子様

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俺を抱き上げて、さっさと控え室に戻ろうとされる清人様。
でも、それは許されなくてね。
背後から追ってきた飛鳥様が、俺を下ろして一緒に来るように、その、声とか顔は周りを気にされてにこやかなんだけど。
目がね。
全然笑ってないし、清人様の襟首を後ろから強引に引っ張る手にも容赦がなくってね。
首を絞められた清人様が臨戦態勢に入って。
二人の姉弟喧嘩をこんな間近で見ることになって、ブルブル震えちゃったよ!

陽太様がすぐに間に入らなかったら、きっと...うん、考えないでおこう!

仕事モードの飛鳥様と、それに渋々付き合ってる清人様。
二人が偉い人やスタッフさんとのやり取りを終えるのを、陽太様と壁際で待っていたらね。

先にスタジオから出ていかれた蓮華さんからは、ギロッと睨まれて心臓がキュッてなったよ。
話の輪から出てきた藤川のお姉さんには、「思ったより良いものが撮れたわよ」って誉められて。
ついでにうなじも見られちゃって。

お姉さん、驚きすぎて思わず出そうになった声を何とか呑み込んで。
陽太さんと無言で会話。
頷いたり、首を軽く振ったりされてなにかを納得されてね。
お姉さんに、生暖かい目で見られたよ。
去っていかれるとき、こっそり「...叔父さんからも頼まれてるし、また別日に話を聞きに行くわ」って言われた。
聞きに来ていただいても、俺に答えられることなんて無いんだけど...

このあと、全部の仕事が終わったことの確認も済んで、挨拶を交わしてスタジオから出ることになったんだけどね。

不機嫌を通り越して清人様と俺に敵意を抱えてる飛鳥様が運転する車にね。
乗ることになったんだよ!
助手席には、ブツブツと声を漏らして今後のことを真剣に考えておられる陽太様。
乗ってきていた送迎車は、清人様と二人になんか出来ないって陽太様が返されてしまったんだ。

上機嫌で俺の隣に座る清人様は、飛鳥様からミラー越しに睨まれても、話しかけられてもスルー。
スルーすればするほど、険悪な表情に深みが増す飛鳥様。
なのに、陽太様は考えることに夢中でフォローをしてくださらない。

確かにね。
飛鳥様からガンガン売られてくる喧嘩を清人様が買われて、車の中で喧嘩が勃発するよりは良いんだけど。
スルーされ続けて飛鳥様の顔がどんどん険しくなっていて⋯
車から降りるまで、目が合わないように、気に触らないようにって。
俺、外ばっかり眺めてたよ。
はぁ、これからどうなるんだろう。
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