例えβに生まれても

三日月

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34 反則の王子様

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赤面しながら頷いた俺の顔を、清人様はうっとり眺めながらその右手を伸ばして俺のうなじに指を滑らせた。
くすぐったいような、ぞくぞくするような落ち着かないその指の動きに身体をすくめる。
うひゃあっ、こんなとき、どんな顔したら良いんだろう。

こんな状況に慣れてなくて余裕なんて一欠片もない俺を、至近距離で清人様から眺められてることにもドキドキ心臓が跳ねてしまう。
今までだって、ドキドキしていたんだけどね。
ドキドキがもっともっと上なんだよ。
こんなに強く心臓が動いたら、身体中の血液が勢いよく流れすぎて破裂しちゃうんじゃないかな。

どうしよう、どうしよう、どうし...


「ねぇ、ハル」

「ふぁっ」


名前を呼ばれただけなのに。
心臓を直接掴まれたくらい、ビックリして身体が硬直してしまった。
まるで、清人様の声に身体が縛られちゃったみたいに動けなくなる。

名前を呼ばれるなんて、全然普通の、今まででもいっぱいあったことなのに。
なんで俺はこんなに緊張しちゃってるんだろう?!

清人様の顔が近付いてくる気配に、ますます身体に力が入ってしまう。
自分から自分の身体を拘束して動けなくしてしまっている。

でも、寄せられた清人様の牙が、俺の耳たぶにかすりチクンと痛みが走ると肩から力が抜けてね。
落ち着こうって自分に言い聞かせようとしていたのに。


「俺の牙を収める器になってくれ」


落ち着く前に、耳へ直接打ち込まれた清人様の言葉。
それを、理解するよりも。

視界いっぱいに、キラキラと一層の輝きが増した清人様の顔が入ってきて。
口角が上がり開いた唇の間には、真珠色の二本の牙が伸びたままで。
輝く瞳は、その深淵に引きずり込まれるんじゃないかと後ずさりたくなる深みを増していて。

その、綺麗なだけじゃない。
まるで獲物を目の前にした、獰猛な肉食獣さながらの鋭さを突きつけられる。

清人様の凄惨な笑みに迫られ、心臓が今度こそ鷲掴みにされてしまった。

頭の先から爪先まで走った痺れは、ビリビリ甘い毒の余韻を身体に残していて。

気が付いたら肩を抱き寄せられ、清人様の腕に包まれ。


「...ん、きゃあっっ」


うなじに突き立てられた、冷たくて硬い尖った切っ先が。
逃げることを思い付くより早く、ズブズブと皮膚を破り肉に食い込んできていた。
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