例えβに生まれても

32 区別の王子様

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｢ちょっと、清人っ」


お姉さんの悲鳴が、スタジオに響いた。


「まだ仕事の途中よ？！
これ以上は、αもここに居ることが出来なくなるわ。
そのフェロモン、業務妨害で訴えるレベルよっ｣


走ってきたお姉さんは、持っていたファイルを俺と清人様の間に割り込ませ、視界を塞いでくれた。
ファイルの向こう側で、「ハルに何かあったらわかっているなと、俺は言っておいただろうが」「それは悪いと思うから、さっきのは多目に見たでしょう！」「アイツらへの威嚇は良くて、なんで庇護フェロモンは止めるんだ」と、揉めてる声が聞こえる。

た、助かった......かも。
ドロドロの重たいフェロモンは漂ってくるんだけど、清人様のお顔を間近で見ない分威力が減った気がするよ。

あぁ、それでもむせるくらいに甘いフェロモンが肺いっぱいに満ちていたから、まだ息苦しいかな。
このフェロモン、今までと何か違う気がするんだよね。
痺れた場所がポカポカ温まってきて、身体の血行が良くなったのかな？
汗が額に浮き出てくる。
なんか、身体が熱いし.....クラクラ目眩までしてきたよ。


｢これが、庇護レベル？
自分のフェロモンも自覚できないの？
スタッフ、見てないでさっさと換気して、外に出したβを戻して。
あのね、清人？
βが赤面して倒れそうなフェロモンの次は、αがその子を直視できないフェロモンを無節操に撒き散らさないで。
庇護するどころか、独占欲と食欲で獲物を溶かすフェロモンが気持ち悪いったら！｣

｢もともと細かい調整が苦手なのは知ってるだろう。
人のフェロモンにケチをつけるな｣

「.....私、清人は優秀な部類だと思っていたんだけど、手元は見えないのかしら？
こんなの、耐性がないβに注ぎ続けてたらフェロモンで溺死するわよ」


お姉さんは、呆れた顔でファイルをどけた。
その下では、清人様のフェロモンに確かに溺死寸前の俺がぐったりと身を任せていた。
い、息が苦しいです.....