例えβに生まれても

三日月

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32 区別の王子様

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フェロモンに、殺傷能力は無いって学校で教えられていたけど。
先生に見せたいよ!
蓮華さんの殺気に満ちたフェロモンを、直接ぶつけられたら心臓発作起きます!
間接的には殺傷能力有りです!

でも。
すっかり怯えて動けなかった俺に、蓮華さんのフェロモンが辿り着くことはなかった。
俺の前で身を屈めていた清人様が、振り向きもせずに低く喉奥で唸られて。

ぐぅとか。
うぅとか。
聞き取りにくい、小さな小さな音だったんだけど。

たったそれだけ。
その音と同時に、蓮華さんのフェロモンは霧散して消えてしまった。

あんなに、怒濤の勢いで目前まで向かってきたフェロモンの固まりが。
一瞬で。
粉々に弾け飛んで消えてしまった。

その圧迫感がなくなった代わりに。
気が緩んだところに。
どろどろに溶かされそうなくらい、熱くてねっとり絡み付いてくる清人様のフェロモンが、頭の上から一気に押し寄せてくる。


「ひゃ、はぁ.....」


胸が苦しくなってきて、息をしようって口を開いたはずなのに。
そこから清人様のフェロモンを、どんどん、どんどん注ぎ込まれて身体の中からも溶かされちゃう。
自分の存在が保っていられない。
消えちゃう....俺が清人様の中に溶けて消えちゃうよ......

グニャリと視界が歪んで。
立っていられず、清人様の腕に抱き止められたんだってわかったときにはもう手遅れ。
清人様のフェロモンにとっぷり浸かっただけで限界なのに。
実際に清人様の身体に触れられてしまい、もう、ダメだよ...
なんにも考えられないよ......


「ハルに、意地汚ねぇフェロモン盛ってくんな」


俺を抱き上げた清人様が、冷たい声で話されているのに。
いつもなら怯えるその声にさえ、安心して目を閉じてしまっていた。
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