例えβに生まれても

三日月

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31 撮影の王子様

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清人様は、部屋に入ってから時計を確認。
溜め息をついて、生気の無いふらふらの欅平さんに命じられた。


「ハルを仕上げろ。
但し、必要以上に触れるなよ?」

「ま、任せてっ」


必死にコクコク頷かれる欅平さん。
清人様はその姿を見て、片眉をピクリと上げられたけど、無言で衣装のかかったハンガーを手に着替え始められた。
俺と欅平さんの目なんて全く気にされず、下着姿になられるからね。

はぁ、目のやり場に困って俯いちゃったよ。
清人様は、どこもかしこも清人様っ
誕生日に見てしまったあの動画も思い出して、うわぁぁぁってなっちゃう。
清人様と綺麗なお姉さんが・・・あの背中に腕を伸ばして、いっぱいキスして、あんなこととかこんなこととかっっ


「あ、あの、こっちに座って?」


欅平さんに恐る恐る話しかけられ我に返る。
気持ちが飛んじゃっていた俺に、欅平さんは机の前に座るよう椅子を引いてくれていた。
壁際にある机なら鏡の前なんだけど、長机の方で良いのかな?


「ふふっ
後で鏡を見たら、ビックリするくらい可愛くメイクするわね」

「え、は、はい?」


俺、後ろ姿だけだし、メイクって必要ないんじゃないかなぁって思ったんだけど。
欅平さんに笑顔で言われ頷いてしまった。
前髪をバンドで上げられて、顔にペタペタなにかを塗ったり、パフパフ粉を叩いたり。

うわぁ、いよいよ撮影なんだぁと緊張してきたよ。

着替え終わった清人様も、俺の隣でメイクを同時にされ始めた。
欅平さん、二人の回りを世話しなく動いていたんだけど。

俺の方は終わったみたいで、清人様にかかりきりになって数分後。
腰のポーチから櫛を抜き取ったとき、突然、「もぅ、気になりすぎてダメよっ」と体をくねらせるからビックリしちゃった。

俺と清人様の間で膝を曲げて、今まで無言だったのに弾ける勢いで俺に話しかけてきた。


「あのね、あのね、私は欅平って言ってね。
フリーでスタイリストをしているの。
格下αに触られるくらいなら、腕がたつβ連れてこいって言い出してくれた飛鳥様と清人様には感謝してもしきれないくらい恩があるんだけど」

「欅平さんは、βなんですか?」


清人様が任されてるから、てっきりαだって思っていたよ。
思わず欅平さんの方を向いたら、視界に清人様が飛び込んできた。

油断してたから、その横顔を直視しちゃってね。
お化粧なんて必要なのかな?って思っていたんだけど、綺麗がより綺麗になるからプロなんだなぁってわかっちゃいました!
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