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早朝のアパート

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『ユズちゃん、早く帰らないと煩ぇ店長がやって来るぜ。
ロッカーでそんなとこ膨らましてんの見られたら、通報されんじゃね?』
「うるさ」
『ほらほら、怒鳴っちゃ駄目だってば』


譲は下半身を制服で隠し、誰のせいだと怒鳴ろうとしたがソレは譲の声を遮り急速旋回で近付いて来る。
ぶつかるっと条件反射で目を閉じた譲は、そのまま酷い揺れに意識を手放してしまった。

次に目が覚めて視界に入ったのは、見慣れた天井とふよふよ部屋を漂う見慣れたくない作務衣の後ろ姿。
(コンビニの更衣室に居たのに⋯なんでアパートに?)
譲は記憶を手繰り寄せようするが一向に遡れない。
コンビニの更衣室で襲われてから起きるまでの時間がぽっかり空いていた。


「お前ッ、絶対に俺になにかしただろっ」


譲は勢い良く身を起こすと漂う背に手を伸ばした。
背中を向けていたソレは、譲の目覚めに気づいてクルッと宙で反転。
譲の腕を避けようともせず、譲目掛けて降りてくる。
譲は、その小豆色の作務衣を引きちぎってやるくらいの気持ちで掴もうとしたがその指は何も掴めない。
自分の腕が相手の半透明な身体に埋もれ、ギリギリ歯軋りする結果を招いた。


『やっと起きた?
いやいや、初めて乗っ取っちゃったからさぁ。
このまま目が覚めなかったらヤベェなぁって思ってたんだよ』


ソレは、『元気そうで何より』と軽薄な笑みを浮かべる。
譲は、乗っ取りのキーワードに目眩。
(昨日は金縛りで今日は乗っ取りって⋯なんか、パワーアップしてないか?!)


「⋯余計なこと、してないよな?」
『ナイ、ナイ。
ユズちゃんに任せてたら時間掛かりそうだったから、サクッとトイレでヌイて着替えて帰って来ただけ。
ちゃーんと、制服もハンガーに掛けて来たよ~
昨日、床に落ちてんの見たクッソ店長が、グチグチとユズちゃんに絡んできて時間食わされてたの見たしねぇ。
俺ってデキル子だろ?』


褒めて褒めてと自分の周りを旋回されても、譲はキュッと喉奥が絞まったまま動けなかった。
(バイト先のトイレでヌイたっていうのかぁあああっ)
爆弾発言以降の話なんて頭に入って来ない。
ソレが、譲に無視され舌打ちしたのにも気付けない。
気付いたときには、使い込んだシングルベッドに押し倒されていた。


「おいっ、お前、またっ」
『んんー、お前じゃないって。
俺は、憲次だって言ってんでしょう?』
「ふざけるなっ
真面目な憲次はこんなことしないっ
そんな姿をしてても、誰が騙されるかっ
いい加減、本性を現せっ
いや、成仏してどっかに行けっっ」
『本性、本性ねぇ』


ソレは、譲の言葉を繰り返し鼻で嗤った。
まるで幼馴染を馬鹿にされたようで、譲はイラッと顔をしかめた。


『こっちが本性かもよ?』
「俺は、小さい頃から憲次を見てきたんだぞ。
お前みたいな色情狂の片鱗はアイツには無いっ」


両肩を布団に押し付けられたままでも譲は堂々と断言した。
奔放な兄と違い、憲次の悪い噂をあの町で一つも聞いたことがない。
「憲次が先に生まれてきたら良かったのに」と檀家同士がボヤいていたことは何度もあったが。


『ほーん』


馬鹿にした様子を隠さず、ソレは嗤う。


『でもさ、真っ白じゃ無いのはユズちゃんが一番わかってるよね?
告白されてんだからさぁ』


(なんでお前がそれを知っている)

譲は、初めて目の前のソレが憲次と関係する可能性を考えた。
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