ヘタレαにつかまりまして

三日月

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4 予想外

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「抑制剤、は⋯ココに、ナイ」


待機していた部屋に、ケースごと、置いてきた⋯ハズ。
確か、そう、部屋で⋯⋯どこかで、見たような。
うまく思い出せない。
記憶がふわふわと形を崩し、紛れて隠れてうまく取り出せない。

聞かれたことに答えているのは、本当に俺なんだろうか。
その記憶さえもあやふや。
虚ろな声に力は無い。
他の誰かに操られているような不思議な感覚。
頭の中が別のことで埋め尽くされ、片手間でぼんやりと返す言葉はどこか遠くで聞こえてくる。

菊川から目が離せなくて、菊川のことしか考えられない。

菊川も同じなのか、俺を見ている瞳はギラギラと野蛮な炎を灯し獣のようだった。
今にも飛び掛かってくるんじゃないかと、期待に胸が踊る。
あぁ、早く、食べて、タベテ。

もっとその目に捕らえていて欲しいのに、菊川は絡みついた視線を断つように目を閉じてしまった。
荒い呼吸を繰り返す菊川の額からは、汗が滲み。
眉根を寄せる表情は、辛そうで⋯苦しそうで、堪らない。
菊川が我慢の限界の縁にいて、俺を強く激しく求めていることが伝わってきて嬉しい。

その汗を舐め取りたくて、喉が鳴る。
口許を覆う腕で、抱き締められたい。
俺の発情フェロモンに、もっと酔わせたい。
閉じた瞳に、もっと俺を映して。
俺だけを見て。

ハヤク、タベテ。


「くる、シィ」


切なく、弱く、呟いて。
その瞳、注意をこちらに誘い込む。
自分の発情フェロモンに呑み込まれ。
身体も意識も、トロトロに甘く蕩けていく。
目の前のα、菊川に、内側から掻き回されたい。
その隠れた牙で噛まれたい。


「だ、大丈夫か?」


くぐもった声だけじゃ、嫌だ。
手を伸ばせば届くのに、なんで来てくれない?
離れた場所から心配しないで。
もっと近くで、隙間ないくらいに身を寄せて。

その腕で、俺を抱き締めろ。
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