ヘタレαにつかまりまして

4 予想外

2

菊川の拘束から逃れるために、他に方法は無いだろうか。
これが誘拐犯相手なら、自由になる足で躊躇なく金的を蹴り上げてやるところなんだが、そこを使いものにならなくするのは本末転倒だ。
二人とも両手が塞がっているため、ズキズキ痛む額を擦ることも出来ず向かい合ったまま動けない。

家庭教師の萩野から、学校の教科は勿論、それ以上に広く深くαとΩ、それぞれに必要な教育を受けてきた。
αに擬態するためのα教育と決められたαと番になるためのΩ教育の両立は、他のバース性と比べ能力の全てが劣るΩの俺にはかなりの重荷。
しかし、桜宮財閥に生まれた者の責務なのだと、毎日予習も復習も怠らず学んできたんだ。
なのに、なんでこうも上手くいかないんだ。

積み上げてきた努力の全て、いや、俺自身を否定された気分だ。
一年前から決められていた番候補には、コイツにうなじを噛まれてあっさり手放されるし。
番になって欲しいと求められたコイツからは、恋愛脳全開で拒まれるし。
据え膳上げ膳で用意されたΩなのに、αに求められないと言う事は。
やはり俺自身に、萩野さえ見落としていた欠陥があるとしか思えないじゃないか！


｢菊川、俺はΩとしての魅力がないのか？｣


恋愛なんてバカげた理由は表向きで、菊川がその気にならないから拒まれているんじゃないか。
それを時間稼ぎも兼ねて率直に聞いてみた。
脱いで準備が出来ないなら、この至近距離の体勢を維持して発情フェロモンを菊川に浴びせてやる。
俺自身に問題があっても、Ωの発情フェロモンが出てしまえば拒めるαはいないんだからな。


｢え?!
そんなことは⋯⋯ないと思う」


俺の質問に驚いた菊川が、パチパチ瞬きをしてから改めて俺を見下ろしたのを感じた。
緊張してしまい、掌からじわりと汗が滲む。


「桜宮のことはずっとαだと思ってたし、それにいつも親のフェロモンに囲まれていたからΩとして見るのは初めてだけど⋯⋯正直、可愛い、と、思うし」

「じゃあ、なんで俺と番になることを嫌がるんだ！」

「嫌がってるんじゃないってば！
お互いの心の準備と言うか、先に身体だけって言うのが嫌なんだよ。
桜宮だって、好きじゃない相手に、そ、の、だ、だ、だ、抱かれるとかっ
嫌じゃないの？」

しどろもどろで、しかも途中から赤面した菊川が弁解を始めたとき。



―――それは、キタ。