ヘタレαにつかまりまして

3 お花畑

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真っ向からやり合おうとする菊川に、菊川社長の眉がピクッと釣り上がった。
両腕を胸の前で組んだ菊川社長の目が、冷たい炎を宿しゆらめく。
部屋の温度は、一瞬で氷点下。
菊川社長の身体から、凍てつく怒りのフェロモンが溢れ出した。
敵意を含んだその迫力に、思わず菊川のシャツを握り締めて縋る。


｢⋯倭人には、久しぶりに教育が必要だな。
飛鳥、貴女の番をさっさと部屋に連れていきなさい｣


社長の声が、1トーン低くなる。
対象の二人の肩が、感電したようにビクッと強く跳ねた。

身近でうねりをあげるフェロモンの脅威。
抵抗も反旗も許さない菊川社長のプレッシャーが、隣の菊川目掛けて迫ってくる。
菊川は迎撃しようとフェロモンを放つが、相手にならない。

それはそうだ。
いくら菊川が同級生から一目置かれる存在でも、所詮は高校生。
叶うわけないじゃないか。
αは、一人前と認められるまで家族単位の群れに属して生きている。
ここの群れのリーダーは、菊川社長。
庇護化にあるαが、リーダーに歯向かうなんて許されることじゃない。

そもそも、俺には菊川の番になんてなる気は無いんだ。
余計なことをするなと止めたいのに、息をするのさえ苦しい。
今まで守ってくれた両親のフェロモンが恋しい。

対峙する菊川社長と菊川。
菊川劣勢のまま事態は収束するかに見えたが、そこに、番になるはずだった人、飛鳥さんが優雅な笑顔で割って入った。


｢私は、弟のものを横取りする愚かな姉にはなりたくないわ。
⋯倭人、貴方の部屋に避難させなさい。
先に噛みついた責任をとるのよ。
その子は、貴方の番だわ｣

｢そうさせて貰うっ｣


その言葉は、番権利の譲渡。


｢そんなっ｣


俺は、飛鳥さんの番になるためにここに来たのにっ

菊川のシャツを握ったまま固まって動かなくなっていた右手。
それをなんとか外して、飛鳥さんに向かって伸ばした
Ωの俺を受け入れてくれるのは、あなたなのだと。
この一年、自分に、ずっと言い聞かせてきたのに！

指がその背に触れるより早く、身体が宙に浮いて菊川の肩に担がれる。


「イヤだッ
離せ、菊川っっ」


嫌がる俺を無視し、菊川は社長の怒号が響く部屋から走り出した。