ヘタレαにつかまりまして

三日月

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3 お花畑

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初めて俺に発情期が来たのは三ヶ月前。
事前に来ることはわかっていたので、その日は番避けを付けて自分の部屋に籠もっていた。

発情期にΩがどう変わるのか。
知識として得てはいたけれど、ドクドク身体を震わせるほど大きく打ち鳴らす鼓動と抗えない身体の変化。
抑制剤を使いその場で抑えたから、時間にすればそう長くは無かったのだが。

強制的に身体が内側から蕩かされ怒涛の劣情。
自我を保てないあの感覚は、今でも忘れられない。
Ωの本能に乗っ取られ、自分が自分で制御できない、理性を失いαを求める喜びに踊らされる感覚。

元々淡白で自慰も処理めいていた。
俺は、発情期にαを求めて狂う他のΩとは違う。
俺なら、発情期に冷静に対応出来るだろうと言う自負さえあった。

だが、あのときの俺は。
初めての発情期に戸惑うよりも、本能の根底から激しく突き上げてくる昂ぶりに心地よさを覚えていた。
一時でも抑制剤を打つことに躊躇った自分、Ωの本能に負けた自分がいたのだ。


ーーーΩは、Ωにしかなれない。


どこかで、まだ。

無意識に。

自分ならば大丈夫では無いかと。

Ωとして生きなければならない現実を割り切れず、決められたαの番にならなくていい道を模索していた愚かなΩ。
その希望が、完全に潰えた瞬間だった。



昼食後の人払いされた屋敷の前。
両親と手を繋いで降りていく階段。
もっと長ければ良いのにと進むほどに口元が歪む。
最後の段から足をおろし、今降りてきた道を振り返った。

あぁ、本当に俺はここを去るんだ。
実感が重く肩にのしかかり、両膝に意識して力を込めていないと身体がふらつきそうになる。

車に乗り込む前に、もう一度屋敷を振り返り、深々と屋敷に向かって頭を下げた。
秘密裏に去ると決められていたのに、物陰に隠れて見送ってくれる使用人。
生まれ育った屋敷。
それぞれへ、心からの感謝を込めて。

この場に残る母と別れを交わし、父と二人で車に乗り込む。
そして、無言のまま桜宮の門を出た。

両親のαフェロモンを身に纏わず、Ωとして外に出る。
こんなことは、生まれて初めてだ。
心許ない裸の自分。
弱い自分。
何も持たない自分。

たった今から、俺はΩとして生きていく。
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