ヘタレαにつかまりまして

三日月

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3 お花畑

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最後の晩餐、じゃないけど。
この家の一員、桜宮 奏として食べる最後の昼食。

テーブルを囲んでいる三人の眼と鼻は一様に赤い。
使用人が迎えに来なかったら、延々玄関で泣き続けていたかもしれない。


「嫌なことがあったら、我慢せずに連絡してくるのよ」


何度も何度も、母さんは声を震わせ同じ言葉を繰り返す。
全然食事には手をつけていない。


「女性のαは、性格キツイからね。
合わないなっと思ったら、無理して番にならなくていい。
もっといい相手を見つけるから」


微笑みながら父さんは、さも簡単なことのように話すけど。
俺が身請けされる家の選定に、時間も労力も惜しまず掛けてくれたことを知っている。
俺がΩとわかってから、表向きは桜宮家の跡取りとしてαのまま扱ってくれそうな、この家の秘密を共有出来るα女子を。
αの弟が生まれてからは、Ωとしての俺を受け入れてくれるαとその家族を。

Ωの人権が見直されつつあるけれど、Ωの俺を立ててくれるαを見つけることは、砂漠の中から一粒の真珠を探し出すより難しい条件だ。

父さんも母さんも帰ってきて良いと言ってくれるけれど、ここに俺が残ることは出来ない。
αの弟が桜宮家を継ぐには、長男でもΩの俺がこの家に居続ける訳にはいかないんだ。

αとΩ、格の違いはハッキリしていても。
Ω人権解放運動が盛んになってきた今、本人にその気がなくても後継者争いの火種に成りかねないからだ。
αの弟が後継者だと公表されるとき、必ず長男の俺がなぜ継がないのかと訝しむ声は上がるだろう。
Ωだからだと知れたとき、物知り顔で「差別だ」と見当違いに擁護してくる世論に巻き込まれるのはゴメンだ。

Ωがいくら努力をしても、αに敵わないことを俺自身が一番よく知っている。
弟を押し退けて桜宮財閥を動かすなんて考えられない。
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