ヘタレαにつかまりまして

1 また、明日

7

昼休み。

チャイムの音と共に教師が去り、菊川と取り巻きが扉から外へ出ていくと教室の雰囲気が軽くなる。
縛りが緩いとはいえ、このクラスを支配する菊川に気を使わずには居れないからな。

カフェステリアや部室など、目的に沿って外に向かう者。
部屋に残り、自席や机を移動し昼食準備に取りかかる者。
ひとりひとりが自由に動き出し、騒がしくなる。

普段なら、俺も自分の席に弁当を広げ一人で黙々と昼食を取るところだが。
今日はこのあとするべき予定があるからな。
一人流れに逆らい、帰り支度を始める。


｢かなちゃん、帰るん？｣


鞄に、机の中の教科書、ノート、タブレット。
いつもは置いて帰る辞書も全て詰め込んでいると、後ろから三枝が声をかけてきた。
他の生徒は気になっても、遠巻きにして、寧ろ見ないふりをしてやり過ごすのに、三枝は興味津々、なんの躊躇いもなく尋ねてくる。


｢鞄、パンパンやで？｣


サンドイッチを片手に身をのりだし、｢それそれ｣と鞄を指差された。
今にも具材が落ちそうで眉をひそめる。


｢早退だ。
ちゃんと閉まるから問題はない｣


淡々と答え、鞄の留め具をしっかりとあわせる。
周りから不審がられない程度に日を分けて持ち帰り、計算上なんとか入る量に調整していたんだがギリギリ過ぎたか。

縫い目の糸がキチキチ音を立てたが、そこは力ずくで抑えこんだ。
階段や廊下でぶちまけなければそれで良い。
どうせ、二度とこの鞄を使うことは無いからな。
送迎車まで運べれば問題ないんだ。