4 / 1,039
1 また、明日
1
しおりを挟む
「お前、やっぱすげーな」
「あれだけ寝ていて、この点数か⋯」
「さすが、菊川だな」
四季の気温変化に左右されない、全館空調の校舎。
バース性混在の私立茅野学園高等部一年生の教室では、先週実施された一学期の実力試験結果が発表されていた。
次々教師から名前を呼ばれ、得点順で返却される答案用紙を思い思いの表情と足取りで教壇まで取りに行く生徒で教室は溢れ、喧騒に包まれていた。
だが。
うるさい⋯
苛立ちでヒクヒクと口角が上がりそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪える桜宮 奏(さくらみや かなで)の目には、自分の前に座る背中しか映っていない。
映るという表現では生易しいくらい、怨念を込めた目でその背中を朝から絶えず睨みつけていた。
誰よりも先に名前を呼ばれ、自分よりも早く答案用紙を受け取った本人の声は聞こえてこないがそこにいるだけで殺気さえ湧いてくる。
それを囲む三人が、延々と冷やかしているのも目障りだ。
特に今回は、今まで以上に力を入れて試験に望んでいたのにっ
最後まで敵わないのか、くそっ
実力試験の最後の返却教科、数学の答案用紙が、ぐしゃりとその手の中で潰れた。
最後まで届かなかったコレに価値なんて無い。
このまま丸めてゴミ箱に投げ捨てたいっ
いや、それさえも面倒だ。
消えてなくなればいい、こんな、価値のないものっ
遂に全ての教科が、目の前の人間より先に呼ばれることがなかった悔しさに答案用紙という存在まで腹立たしく感じる。
今回の実力試験だけでなく、コイツに一度も勝てないとは⋯
中高一貫校の茅野学園では、試験結果は総合上位30名、各教科5名が学年毎に職員室前に貼り出される。
中等部では、同じクラスに一度しかならずにすんだが、貼り出し結果の一位の座が全て同じ名前で埋め尽くされているのを毎回毎回苦々しく眺めてきたのだ。
「え”-、かなちゃんもったいないことすんなぁ。
90点でも、十分やと思うけどなぁ?」
「勝手に覗くなっ」
後ろの席から身を乗り出し、点数を盗み見た三枝 渡(さえぐさ わたる)が呑気に笑う。
中高一貫校の茅野学園に、高等部から編入してきたβ。
クラス委員として、校舎の案内をしたあたりから馴れ馴れしく絡んでくる。
名簿順も近いせいか、入学式でもこいつは呑気に話しかけてきたな。
俺が、あの、世界屈指の桜宮財閥跡取りだとわかっているようなのだが他のβのように遠巻きにしてこない。
ここに入学するまでは、βばかりの平凡な環境で過ごしてきたからなのか、逆にあの桜宮財閥と言われてもピンと来ていないのかもしれないな。
食品、医療から物流、製造、国策事業まで多岐にわたり手掛ける桜宮財閥。
並みのαであれば、歴然とした出自の格の違いから目も合わせてこないと言うのに。
「お前と一緒にするな」
「βの俺と一緒に出来るわけないやん」
自分の答案をお詫びにと広げて見せ、肩をすくめる。
出来の違いはわかっているのだと、その表情は達観していた。
点数は、65点。
平均点を狙ったかのような結果を、鼻で哂ってやる。
「あれだけ寝ていて、この点数か⋯」
「さすが、菊川だな」
四季の気温変化に左右されない、全館空調の校舎。
バース性混在の私立茅野学園高等部一年生の教室では、先週実施された一学期の実力試験結果が発表されていた。
次々教師から名前を呼ばれ、得点順で返却される答案用紙を思い思いの表情と足取りで教壇まで取りに行く生徒で教室は溢れ、喧騒に包まれていた。
だが。
うるさい⋯
苛立ちでヒクヒクと口角が上がりそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪える桜宮 奏(さくらみや かなで)の目には、自分の前に座る背中しか映っていない。
映るという表現では生易しいくらい、怨念を込めた目でその背中を朝から絶えず睨みつけていた。
誰よりも先に名前を呼ばれ、自分よりも早く答案用紙を受け取った本人の声は聞こえてこないがそこにいるだけで殺気さえ湧いてくる。
それを囲む三人が、延々と冷やかしているのも目障りだ。
特に今回は、今まで以上に力を入れて試験に望んでいたのにっ
最後まで敵わないのか、くそっ
実力試験の最後の返却教科、数学の答案用紙が、ぐしゃりとその手の中で潰れた。
最後まで届かなかったコレに価値なんて無い。
このまま丸めてゴミ箱に投げ捨てたいっ
いや、それさえも面倒だ。
消えてなくなればいい、こんな、価値のないものっ
遂に全ての教科が、目の前の人間より先に呼ばれることがなかった悔しさに答案用紙という存在まで腹立たしく感じる。
今回の実力試験だけでなく、コイツに一度も勝てないとは⋯
中高一貫校の茅野学園では、試験結果は総合上位30名、各教科5名が学年毎に職員室前に貼り出される。
中等部では、同じクラスに一度しかならずにすんだが、貼り出し結果の一位の座が全て同じ名前で埋め尽くされているのを毎回毎回苦々しく眺めてきたのだ。
「え”-、かなちゃんもったいないことすんなぁ。
90点でも、十分やと思うけどなぁ?」
「勝手に覗くなっ」
後ろの席から身を乗り出し、点数を盗み見た三枝 渡(さえぐさ わたる)が呑気に笑う。
中高一貫校の茅野学園に、高等部から編入してきたβ。
クラス委員として、校舎の案内をしたあたりから馴れ馴れしく絡んでくる。
名簿順も近いせいか、入学式でもこいつは呑気に話しかけてきたな。
俺が、あの、世界屈指の桜宮財閥跡取りだとわかっているようなのだが他のβのように遠巻きにしてこない。
ここに入学するまでは、βばかりの平凡な環境で過ごしてきたからなのか、逆にあの桜宮財閥と言われてもピンと来ていないのかもしれないな。
食品、医療から物流、製造、国策事業まで多岐にわたり手掛ける桜宮財閥。
並みのαであれば、歴然とした出自の格の違いから目も合わせてこないと言うのに。
「お前と一緒にするな」
「βの俺と一緒に出来るわけないやん」
自分の答案をお詫びにと広げて見せ、肩をすくめる。
出来の違いはわかっているのだと、その表情は達観していた。
点数は、65点。
平均点を狙ったかのような結果を、鼻で哂ってやる。
36
お気に入りに追加
1,765
あなたにおすすめの小説


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。


嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる