ヘタレαにつかまりまして

SS(書き下ろし)

友達デート 15

そのあとも、樟葉へ順番が回ると毎回独創的な歌が部屋に響いた。
本気でこの歌い方しか出来ないのか・・・
だが、両手でマイクを握り、全力で楽しんで歌う姿を見ているとこちらも楽しい。
三枝と一緒に、樟葉のリズムに合わせて手拍子を入れたり、部屋にあったタンバリンやマラカスで盛り上げていると気にならなくなっていた。

三枝は、男女問わず色々な曲を歌いこなし、俺も音楽の授業で習った曲を歌った。
料理はそれほど美味しいとは思わなかったが、一つのお皿から分け合って食べていると気付いたらどのお皿も空になっていた。


「いっぱい歌ったねぇ」


受付から終了15分前の連絡が入り、それぞれ最後に一曲と全員で一曲歌うことになる。
樟葉は、練習してきた曲を全部歌いきったらしく何も入れるものが無かったらしい。
俺と三枝が一曲ずつ歌い、最後に体育祭で繰り返し流れていた曲をマイクを入れずに三人で歌うと一息ついた。


「神社でねぇ、唄うことはあるんだけどねぇ。
いろんな決まりがあるし、こんなに自由に歌えるのって楽しいなぁ」


ほぉ、自由に歌っていた自覚はあったのか。
三枝は、腕時計をチラッと見て終了時間までまだあると確認。
「なぁなぁみこちゃん」と樟葉にお願いしだした。


「歌って、どんなんなん？
ここでも歌ってえぇ歌やったら聞きたい！」


興味津々で、ミーハーすぎるぞ。
樟葉は前髪から覗く右目をパチパチ瞬きして驚いたようだが、あっさり了承。


「歌っちゃいけないとは言われて無いしぃ、いぃんじゃないかなぁ？
民間伝承の唄が消えてしまわないように、まとめてるだけのもあるしぃ」


コホンと、可愛く咳払いする真似をして、椅子から立ち上がり液晶画面の前に立った。
かなり乗り気に見える。

三枝が拍手をしたから俺も手を叩くと、樟葉はなんとその場で靴を脱いで正座。
歌うだけではなく、形式も再現してくれるのか。
期待に胸を膨らませると、樟葉は右手で俺達の拍手を静し、深々と頭を垂れて大きく息を吸い込み顔を上げた

その口から流れたのは、腹に力を込め、朗々と歌い上げる古語で構成された恋歌。
右に左にと両手をゆったりと払い、立ち上がりながら狭い空間を舞うように移動する。


貴方にこの身を捧げましょう。
身も心も捧げましょう。
愛しい偉大なあなたを支えて参りましょう。


樟葉の奏でる音は、切なく胸に響いた。