俺の番クン

三日月

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僕の番サン

入舎式 家族

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「良いな⋯」


満開の桜の下を、自分と同じ制服を着た子どもとその家族が並んで歩いていく。
その中で、僕は一際目立つ一組の家族に目を引かれ、足が止まり動かなくなってしまった。
富裕層が通う幼稚舎の入舎式は、セキュリティや諸事情により親族の参加は二親等までに限られている。
両親が来れないときは、事前申請の一人だけ許されるけど、ハレの日だからそれは滅多に使われない特別枠。

特別枠なら、一人。
両親なら、父親か母親かその孕親の中の組み合わせで二人迄。
結婚と番を別々に考えなくなったから、それより多いことは無い筈なのに⋯その子の周りには、大人が三人もいた。

二人に挟まれて手を繋ぎ、さらにもう一人が並んで歩く三人の背を優しい眼差しで追いながら歩いている。
その光景には、幸せがぎゅっと詰まっていて。
笑い声まで聞こえてきて。
とても楽しそうで。

つい僕の口から、本音がぽろりと零れた。

空っぽの自分の掌が、突然恥ずかしくなって後ろ手に回す。
僕がお父さんに手を握ってもらったの、いつだったかな⋯

僕を産むとすぐに家を出ていった母親。
海外出張が伸びて来れなくなった父親。
不在の父親のフォローに動く祖父。
僕の入舎を祝したパーティ準備に忙しい祖母。

誰も、僕の側には居ない。

昨日の夜、電話でお父さんに「一人で大丈夫です」と言ったのは強がりじゃなくて本心からだったのに。
なんで、こんなに一人きりの寂しさが、どんどんどんどん僕に襲ってくるんだろう。
ここに家族が居ないのは、仕方ないことだってちゃんとわかってるのに。
心細くて、誰も味方が居ない場所に放り込まれたみたいに怖い。


「暁様、そろそろ行きませんと⋯」


門の前から動かない僕に、同行する使用人が不安そうに声を掛けてくる。
うん、分かってます⋯分かってます。
頷いて、気を取り直して、一緒に受付へ向かう。
でも、手は繋がないし、一歩後ろに控えて歩く使用人を僕の親と見間違う人は居ないよね。

今まで大丈夫と思っていたことが、あっという間に切り崩されて孤独を突きつけられた強い衝撃。
僕が一度も体験したことがない、幸せで温かい家族の光景。
この二つは、僕の中にずっとずっと消えずに残った。
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