13 / 23
僕の番サン
入舎式 家族
しおりを挟む
「良いな⋯」
満開の桜の下を、自分と同じ制服を着た子どもとその家族が並んで歩いていく。
その中で、僕は一際目立つ一組の家族に目を引かれ、足が止まり動かなくなってしまった。
富裕層が通う幼稚舎の入舎式は、セキュリティや諸事情により親族の参加は二親等までに限られている。
両親が来れないときは、事前申請の一人だけ許されるけど、ハレの日だからそれは滅多に使われない特別枠。
特別枠なら、一人。
両親なら、父親か母親かその孕親の中の組み合わせで二人迄。
結婚と番を別々に考えなくなったから、それより多いことは無い筈なのに⋯その子の周りには、大人が三人もいた。
二人に挟まれて手を繋ぎ、さらにもう一人が並んで歩く三人の背を優しい眼差しで追いながら歩いている。
その光景には、幸せがぎゅっと詰まっていて。
笑い声まで聞こえてきて。
とても楽しそうで。
つい僕の口から、本音がぽろりと零れた。
空っぽの自分の掌が、突然恥ずかしくなって後ろ手に回す。
僕がお父さんに手を握ってもらったの、いつだったかな⋯
僕を産むとすぐに家を出ていった母親。
海外出張が伸びて来れなくなった父親。
不在の父親のフォローに動く祖父。
僕の入舎を祝したパーティ準備に忙しい祖母。
誰も、僕の側には居ない。
昨日の夜、電話でお父さんに「一人で大丈夫です」と言ったのは強がりじゃなくて本心からだったのに。
なんで、こんなに一人きりの寂しさが、どんどんどんどん僕に襲ってくるんだろう。
ここに家族が居ないのは、仕方ないことだってちゃんとわかってるのに。
心細くて、誰も味方が居ない場所に放り込まれたみたいに怖い。
「暁様、そろそろ行きませんと⋯」
門の前から動かない僕に、同行する使用人が不安そうに声を掛けてくる。
うん、分かってます⋯分かってます。
頷いて、気を取り直して、一緒に受付へ向かう。
でも、手は繋がないし、一歩後ろに控えて歩く使用人を僕の親と見間違う人は居ないよね。
今まで大丈夫と思っていたことが、あっという間に切り崩されて孤独を突きつけられた強い衝撃。
僕が一度も体験したことがない、幸せで温かい家族の光景。
この二つは、僕の中にずっとずっと消えずに残った。
満開の桜の下を、自分と同じ制服を着た子どもとその家族が並んで歩いていく。
その中で、僕は一際目立つ一組の家族に目を引かれ、足が止まり動かなくなってしまった。
富裕層が通う幼稚舎の入舎式は、セキュリティや諸事情により親族の参加は二親等までに限られている。
両親が来れないときは、事前申請の一人だけ許されるけど、ハレの日だからそれは滅多に使われない特別枠。
特別枠なら、一人。
両親なら、父親か母親かその孕親の中の組み合わせで二人迄。
結婚と番を別々に考えなくなったから、それより多いことは無い筈なのに⋯その子の周りには、大人が三人もいた。
二人に挟まれて手を繋ぎ、さらにもう一人が並んで歩く三人の背を優しい眼差しで追いながら歩いている。
その光景には、幸せがぎゅっと詰まっていて。
笑い声まで聞こえてきて。
とても楽しそうで。
つい僕の口から、本音がぽろりと零れた。
空っぽの自分の掌が、突然恥ずかしくなって後ろ手に回す。
僕がお父さんに手を握ってもらったの、いつだったかな⋯
僕を産むとすぐに家を出ていった母親。
海外出張が伸びて来れなくなった父親。
不在の父親のフォローに動く祖父。
僕の入舎を祝したパーティ準備に忙しい祖母。
誰も、僕の側には居ない。
昨日の夜、電話でお父さんに「一人で大丈夫です」と言ったのは強がりじゃなくて本心からだったのに。
なんで、こんなに一人きりの寂しさが、どんどんどんどん僕に襲ってくるんだろう。
ここに家族が居ないのは、仕方ないことだってちゃんとわかってるのに。
心細くて、誰も味方が居ない場所に放り込まれたみたいに怖い。
「暁様、そろそろ行きませんと⋯」
門の前から動かない僕に、同行する使用人が不安そうに声を掛けてくる。
うん、分かってます⋯分かってます。
頷いて、気を取り直して、一緒に受付へ向かう。
でも、手は繋がないし、一歩後ろに控えて歩く使用人を僕の親と見間違う人は居ないよね。
今まで大丈夫と思っていたことが、あっという間に切り崩されて孤独を突きつけられた強い衝撃。
僕が一度も体験したことがない、幸せで温かい家族の光景。
この二つは、僕の中にずっとずっと消えずに残った。
1
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説



王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。

嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点


上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる