俺の番クン

三日月

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俺の番クン

顔合わせ 受付

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鳳ホテルは、仕事やプライベートの利用客も多くカウンター前に並ぶ人の数も途切れない。
政府御用達のホテルだけあって、皆様貫禄がありお上品。
その波間を縫うように、白い封筒を手に軽やかな足取りでエレベーターに向かう若いΩの目立つこと、目立つこと。
ここで何が行われるかわかっている人間もいるらしく、スタッフだけじゃなく利用客からも優しい眼差しで見守られていることに彼、彼女は気付いてないんだろうなぁ。

俺も、あぁして会場に行かなくちゃいけないのか。
明らかに行き遅れΩだと、眼差しの温度が変わるんじゃないのか?
そろそろ時間だぞと諭す冷静な俺と、会場でも浮くだけじゃないかと怯える俺の板挟み。
尻込みしてしまい、中々柱の影から抜け出せない。

この案内は、まずαに参加を確認してからΩに届く。
αは、どのバース性からもモテるから、番プロジェクトに登録したあとで将来を考える恋人が出来ている可能性が高いからだ。
逆にΩは、恋人がいても保障された番を選んでしまう傾向が高いから後回しだ。

この時点では、αにはまだ相手の人数も詳細も知らされない。
あくまで対面。
情報だけじゃなく、遺伝子の組み合わせだけじゃなく、あくまで人と人のフィーリングが重要視されているからとホームページには書いてあった。

そうだ、うん、フィーリングだ。
ここに案内があるということは、ドタキャンでもない限り相手が待ってくれている。
まずは顔を見て、自分の相手がどんな人間か確かめよう。
この十年、全く現れなかった相手。
どんな人間が来ているのか、正直気になる。

勇気を振り絞り、光の間に向かう。
どうやら、αは他の間らしい。
エレベーターで一緒になった⋯なぜかロープでぐるぐる巻きにされた青年とその先を掴んだ青年の明らかにαとわかる大柄な二人組。
ロープの先を持った青年の逆の手に同じ封筒があったんだけど、降りた右手が光の間なのに二人は左に歩いていった。

聞き耳をたてたわけじゃないけど、エレベーターの中は密室だ。
二人の話は、「お父上の御命令」とか「当主の義務」とかなんか大変そうだった。
Ωに生まれて良かったと思ったことはないけど、みなみと和平を見てからはαに生まれたかったとは思わなくなったな。

⋯気が逸れたせいか、少し落ち着けた。
光の間の前で受付担当者に封筒を渡すと、優しい笑顔が返ってくる。


「狭山 一樹さん、初めてのご参加ですね。
初めての方は、緊張して気分が悪くなる方もいるんです。
いつでもスタッフに言ってくださいね」

「ありがとうございます」


手元のタブレットで俺の名前を探し始めた担当者。
直ぐにハッと顔を上げて、「少々お待ちください」と席を立ってしまった。
両隣の担当者が、あとからやってきたΩに番号札を渡して案内していくのに⋯一人取り残され、放置プレイ。

居たたまれなくて、壁際で待っていようかと悩んでいたら背後から声をかけられた。


「お待たせいたしました。
狭山様、ご案内いたします」


並んで座っていた若い受付担当者と比べて年配の男性。
その首に、このプロジェクトに関わるネームタグはかかっておらず、代わりにホテルのスタッフがつける名札が胸元にあった。

『総支配人 藤原』

上品な語り口と温和な笑顔に誘導されるがまま、その背についていく、けど⋯光の間には入らず、再びエレベーターに載って上階へ案内される。
エレベーターの案内板には、スカイレストラン。

なんか、俺だけ流れが違うのでは?
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