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第12話
束の間だったとしても (3) ※
しおりを挟む「お前ここ、弱いよな」
つつ、とぬるみに任せて濡れたふちを撫でられる。
「ん、んんッ」
「な。そうやって我慢する時は」
腫れた花芯を優しく擦れば体がびくびくと反応を示す。
むぎゅ、と質の良い枕を抱いていた櫻子はどうにか快楽を逃そうとしているが今日の恭次郎はなんだか楽しそうに、じゃれ合うように抱いてくれている。
くすぐったさと気持ち良さが一緒になって胸いっぱいに込み上げてくる。ちりちりとした焦がれるような“好き”の気持ちがいつになく強い。
「このまま、うしろ、から……しても、良いから」
「ん。分かった」
櫻子はあまり後ろ向きにされて愛されるのが好みではなかった。
まるで自分の体が支配されているようで、怖かったのだ。硬派な櫻子のプライドの高さゆえではなくてただ、恭次郎からもたらされる愛情に喘ぐだけの……愛されるだけの自分が嫌だった。
自分は彼になにもしてあげられない。
それは心のどこかでずっと思っていたこと。
背後に密着する体と擦り付けられる熱が腰のあたりで滑りが良くなっているのを感じていた。それに合わせて恭次郎の指がぐ、ぐ、と粘膜を押し込むように動いて、ナカを広げている。
もう挿れてしまいたい欲望と万が一にでも傷つけてしまわないようにとのせめぎ合い。
「きょうじろ……もう、大丈夫」
あまり指でぐいぐい広げられるのも恥ずかしい気がする、と櫻子は恭次郎からの丹念な前戯を終わらせてやろうと小さく呟く。その体はやはりこれ以上小さくなれないくらいに枕を抱え、縮まってしまっていた。
は、と短くも大きな呼吸をひとつ。
息を整えた恭次郎が背後でスキンを着けているのが分かる。
彼とは何度もセックスをしてきたのに今日はすごく、どきどきしてしまっていた。
「もう少しうつ伏せになれるか」
「うん……」
体勢を変える時に擦り合った自分の太腿があまりにもぬるついていた。
「少し腰を」
ぐい、と持ち上げられる力強さに頬に熱が上がる。
「はずか……し……」
うう、と細い背を丸めて恭次郎へとお尻を突き出してしまう自分にいつしか櫻子は耳まで赤くなっていた。
「ん、っう」
何度体験しても慣れないこの挿入の感覚。
それに今日は後ろからだし、と期待と不安が混じって、それでも絶対に酷い事をしないと分かっている相手だから櫻子もなるべく息を止めないようにスムーズに恭次郎を受け入れられるように枕を抱き締めて呼吸をする。
そんな恭次郎も少し苦しそうに呻って、全部入り切ったあたりで深く甘い吐息をこぼしていた。
「きょ、じろ……」
「ん?」
ゆっくりと揺れ出す体をどうにか力んでしまわないように、あまり締め付けたら恭次郎も痛いだろうと力を抜こうとすれば膝が震えてしまう。
「こういうの、好き……?」
「あー、まあ。たまには、な」
「そう……そっか」
「ひとつ難点を言うとお前の顔が見えないのがなあ。真っ新な尻と背中を眺めてるくらいしかヤることねえから」
でも、と言葉を止めた恭次郎は挿入をしたまま覆いかぶさり、抱き込むように櫻子の背に体を落として横になる。
「ひ、あ゛」
「これなら近い」
前戯の時と同じように背後から密着して、抱き込まれて。
耳元では性愛に興奮している男の吐息が絶え間なく聞こえる。
「それに、あんまりこう言うコトはしなかっただろ」
「あ゛ッ……あ、や、それ、駄目っ」
後ろから挿入されたまま潤み、腫れ上がった櫻子の花芯が恭次郎の指の腹で優しく撫で上げられる。どこまでしたら痛がるのかを把握している指先で愛されては櫻子も声にならない悲鳴を上げてしまう。
「~~っ!!」
「すっげ……締ま、って」
くく、と喉の奥で笑う恭次郎に櫻子は為す術がない。
「今、軽くイッただろ」
「ちが、だって、きょ、じ……ろ、が……っあ、あ」
「何も違わねーし」
多分、櫻子は本気で達してしまっている。
悟られないように我慢をしているようだったが肩を揺らして腹から呼吸をしていると言うことは……そんな事も、恭次郎には分かっていた。
それならまだ動かない方が、とそっと花芯から指を離して櫻子の柔らかな下腹部を撫でるだけに留める。
なめらかで、ふにふにとしたこの腹の中に自分のモノが挿入されているなんて。櫻子曰く、本当によく入ったものだと恭次郎も思う。
横になっているせいで少し脂肪が流れている触り心地の良いお腹を上機嫌に撫でまわしていれば櫻子の吐息にまた、甘さが戻って来た。
「は、うっ……んんッ」
「痛くねえか」
「ん……だいじょう、ぶ。でも、あの……ね」
恭次郎は多分、待っていてくれた。
本当は深く達してしまっていた自分の呼吸が整うまで、急激に収縮した入り口が緩むまで。それで……まだ続けても大丈夫か聞いてくれている。
その愛情に甘えて良いのだろうか。櫻子はどうしても考えてしまう。甘えてしまえば恭次郎はきっとそれを受け入れてくれて、どろどろに甘やかしてくれる。
分かっているからこそ、出来なかった。それでは恭次郎に依存してしまうから。そんな真似、といつも思っていた。
「やっぱり姿勢がつらいか?」
「うん……」
なぜ、彼には伝わってしまうのだろうか。
「まえ、から、したい」
「分かった」
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