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第12話
束の間だったとしても (2)
しおりを挟む恭次郎にとって櫻子は大切な存在、おとぎ話の中のお姫様……と言うか立場的には女王様ではあるが大切な人に変わりはない。
「びっくりした……」
ベッドまで運ばれ、下ろされた櫻子は薄いヌーディーカラーのストッキングに包まれた爪先をぎゅっとさせる。
すぐに恭次郎も彼女の足元に上がって、その膝に手を掛けた。
「たまには良いだろ」
押し倒して、身を乗り出して。
さらさらとしたストッキング越しの足を撫でながら「ほら、スカート」とあまり強い皺にならないように先に脱がせようと恭次郎はてきぱきと櫻子の身に着けていた服を剥いていく。
「……なんだよこれ、エロすぎねえか」
「ブラウスより先にスカートを脱がせたのはあなたでしょ……」
「これが性癖になったヤツがいてもおかしくねえわ」
恭次郎の目下では上半身はブラウスを着たままで下半身は下着にストッキングだけ、の櫻子がいた。
大きな手なのにブラウスのボタンを器用に外し……そのブラウスの下に着ていたインナーもスカートと一緒に皺にならないようにベッドサイドによけられ、置かれる。
そしてまたつつ、と恭次郎の指が櫻子の太腿を撫でる。
「お前の事だからコレ、たけーやつだろ」
「ん、う」
櫻子は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうになっていた。
愛している男が丁寧にストッキングをウエストから引き下ろして、脱がせようとしている。爪を立てて引っ掛けないように指の腹で、慎重に。
「これ、やだ……っ」
ゆっくり脱がされていく感覚と、恭次郎がまじまじと下半身を見つめていると言う事実に逃げ出したくなる。けれど恭次郎は必然的に太ももを両手で挟むように、破らないように引きずり下ろしている為に櫻子も動けない。
「これだけで感じるとか」
「う、るさ……い、下ろすならおろして……!!」
太ももを抜けてしまえばするすると脱げる筈なのに恭次郎はそれでもゆっくりと、肌を撫でるように引き抜いていく。
自分の肌はもう若くはなくなってきている。ケアをしていても疲れに負けて手抜きになるどころか何もしないでソファーで眠ってしまう事もあり、年相応の感じだ。
少し良いストッキングでそれを覆い隠しているのに、愛している男の手で脱がされてしまう。
ただ、ストッキングを脱がされても……まだ下着は身に着けている。絶対に腰やお腹にストッキングの締め付けのあとが残っているだろうし、見られてどうこう騒ぐ年齢は過ぎていてもとにかく、恥ずかしい。
ふに、ふに、と下っ腹の柔らかい部分をつつかれたと思えば大きな手でひと撫でされた。
「ね……恭次郎って柔らかいの、好きなの?」
よく胸を揉まれているのは性的な愛撫なのかと思っていた櫻子だったがどちらかと言うとこれはスキンシップに近いのではないだろうか。
胸のサイズはむしろ控え目な方だと言うのに恭次郎はよく夜からの戯れの延長で触れてくる事があった。本気でそのままセックスに持ち込もうとするわけでもなかった事を思い返せばきっと、そうなのかもしれない。
「この前、も……三人で遠出した時にビーズクッションの抱き枕を買おうとしてて……ふふ、大崎君にマジで買うんですか?って言われて結局買わなくて」
思い出して、小さく笑い出す櫻子に自分も脱ごうとシャツのボタンに手を掛けていた恭次郎は「買っときゃ良かった」と言う。
「お前を抱けねえ時用にな」
目を丸くさせて、それから「中学生男子じゃないんだから」と言われても恭次郎は脱ぐ手を止めずにベルトに手を掛ける。
「わりとそれはマジな話」
「うそでしょ……」
「俺はガキだからなあ、すぐに人肌が恋しくなっちまうんだよ」
ぐ、と一度強く沈み込んだベッド。
脱ぎづれえ、とベッドから降りた恭次郎は端によけてあった櫻子の衣類と一緒にパウダールームに行ってしまう。戻って来た時にはインナーと下着だけでこざっぱりとして出て来たが櫻子は彼の下半身が大変な事になっているのを見てしまい、やはり気恥ずかしさにごろんと枕を抱えて横になってしまう。
「ねえきょうじろ」
「あ?」
立っているついでに、と二人の間を隔てるスキンをベッドサイドに置いてある小物入れから取り出そうとした恭次郎は数が減っている事に気が付いた。今まであまり減らなかったパッケージ、買い足すのは自分の役割なので買っておかねえとな、と思っていればすり、と既に下着の中で勃っていた自身が櫻子の指先に撫でられた。
確かに、枕を抱えて横になっている櫻子の視線の高さにちょうどベッドサイドに立っている恭次郎の……。
「ぐ、っ」
「本当によくこんな危ないモノ、私も入るわよね」
すりすり、と人差し指で撫でられただけで先走りの体液が滲み出す。幸いにも黒い下着ではあったが先の方に触れられれば櫻子にバレてしまう。
捲られでもすれば、と彼女の好奇心の指先がウエストゴムに引っ掛かった所で恭次郎は細い手首をきつく掴んで「これ以上ヤったら啼かせる」と言い出す。
それはやだ、と枕を抱いて横向きからさらに体を捩ってうつ伏せになった……のが悪かった。そのまま恭次郎に後ろからのしかかられた櫻子の体は容易く、押し潰されてしまう。
のし、と感じた彼の熱と質量に櫻子の胸は切なくなる。
うつ伏せから少し横になって欲しいと誘導されて、ショーツの中に遠慮なく入ってくる手に期待してしまう。
「ん、っ」
ちゅく、ちゅく。
ほんの小さな音。それでも下着は……本当はシャワーを浴びたばかり、着替えたばかりのショーツは濡れてしまっていた。
恭次郎も足を絡ませて自分も気持ちよくなれるように抱き込みながら熱情を擦りつけては吐息をわざと櫻子の耳に吹き込んでいた。
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