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第11話
キスだけして (5)
しおりを挟む昼間の櫻子は本当に管理をしている店に差し入れを置きに行ったついでに本部にも寄っただけでパフェを食べ終わり、少しゆっくりした辺りで足立と大崎も会長室に戻ってきたのでそのまま櫻子は大崎を伴って帰って行った。
それからは随分と機嫌が良さそうな、それでいて櫻子から鬼のような量の目を通しておいて欲しいと言われていたデータや資料を真剣に確認している恭次郎がいた。何か良い事があったんだろうな、と思う足立はそっとしておこう、と見守る。
それに今夜の予定はどうだったか、と先ほど恭次郎から確認をされて……帰りは櫻子のマンションに行くとまで言い出した。
二人の仲を誠一も否定しなかった。
だから、と言う訳でもないが足立も二人を見守るスタンスを貫いていたがこれから先の事をどうしても、年長者として憂いてしまう。
四代目会長であるのは櫻子、女性の身ながら桜東会と言う大きな組織を上手く回している実績は現代のやり方であっても古参の組長衆にも順応してやり、上手く乗り切っている。
正直、恐ろしいくらいだった。
三島誠一の実子とは言えずっと離れて暮らしていたと言うのに、血は争えない。
「坊にも春、ってか」
「あ?」
足立はいきなり何を言い出しているのやら。渋い顔をした恭次郎は彼のぼやきにふん、と短く息をついてノートパソコンのモニターから顔を上げる。
「今日はもう早じまいにするか」
それって、と足立は思ったが「櫻子に夕飯を買って帰る」と堂々と言い切られた。そうなると勿論、足立もデパートなどの食品フロアまで付き合う事になるのだが見守るつもりでいながらも少し、危惧をする。
たとえ二人がそれで良いと言うのなら子供の恋愛でもないのでそのまま見守っている方が良い。しかし状況は依然として良くないどころか悪化している真っ最中である。
「坊、今更ながら兄貴分ヅラしちまいますが……危なくねえか」
恭次郎と櫻子、どちらの立場にも言える事だった。
かつての兄貴分である足立は二人の事を心配して声を低くする。
少し驚いた表情をしてから眉尻を落とした恭次郎は「足立の兄ちゃんに言われちゃあ俺もまだまだガキだよなあ」と刈り上げてある後頭部をかりかりと指先で掻く。
恭次郎も分かっていて、それでも今は櫻子への愛情を優先しようとしているのだと確認した足立は溜め息を飲み込み、提案をする。
「メシの調達ってならどうします?会長のお好きな物でしたらいつものデパートで……確か催事が入れ替わって北欧物産展のような物が開催されている筈ですが」
「良く知ってるな」
「普段から本部の茶菓子の手配は俺がやっているのはご存じで」
「……知らなかった」
「これもまたいぶし銀の舎弟スキルってやつですよ」
恭次郎が今更、櫻子の事で周りが見えなくなるなどあり得ないがここ最近の二人の雰囲気が変わった事は大崎にもそこはかとなく聞いて把握していた。ガキのままだ、とは言うが誠一に連れられて来た時の恭次郎はあまりにも大人しく、恐ろしい程に物わかりのいい子供だった。
こんな危惧が浮かぶのも彼の子供の頃を知っているから。歳の離れた弟のような恭次郎の事がどうしても心配になってしまうのは足立の立場としては致し方のないこと。
「支度が出来たら車出しますんで」
「ああ、頼む。行先はとりあえずその催事をやってる所で構わない」
「承知しました。一応、被らないように大崎に訪れていないか確認を取っておきます」
すっかり恭次郎の頭の中は櫻子への夕飯の調達に切り替わってしまったのを見た足立はしょうがねえ坊だなあ、とこっそり心の中でぼやいてドライバーへ配車の予定があると連絡を入れる。
・・・・・・・・
あとがき
東京くらくら享楽心中、第11話いかがでしたでしょうか。
お話は終盤となり、恭次郎と櫻子の二人はやっと素のままの恋愛を……そう、恋愛小説なんですよね、このお話。反社なシーンはどうしても地の文マシマシ、緑野が好き勝手に書いているお話ですが最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
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