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第1話
享楽に耽る (6)
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黒塗りの車内、だるそうに後部座席で瞼を閉じている櫻子。
彼女が一人で住んでいる新宿の高層マンションまで送っている最中の恭次郎は「風邪じゃない」と言う櫻子の言葉に色々と……男としての責任について考えを巡らせてしまったがそれも「違う」と本人に否定される。
「会長、御疲れだったのでしょう」
恭次郎が急遽呼び出した櫻子専属のドライバーが声を掛ける。
元は桜東会の三次団体の息子で湾岸で走り屋をしていた若い男。櫻子を慕い、彼女が桜東会四代目会長である事ももちろん知って……彼女自らが恭次郎にも知らせずに会食や密会をしたりしている時にも秘書のように必ず付いて回っていた。
彼女の体調を心配するドライバーの声に恭次郎は僅かに顔をしかめる。
櫻子が語りたくないのならそれまでなのだが、ひと月の内で幾度も様変わりしてしまうデリケートな女性の身。
車内には櫻子の為にいつも置いてあるのかカシミヤの大判のブランケットがあり、恭次郎が胸元までそれを掛けてやった。
・・・
「だから風邪でもそれ以外でも何でもないって言った筈だけど」
恭次郎はシンプルと言う部屋からはかけ離れた、物の無い広い部屋のソファーに座った櫻子を見る。
やはりいつも姿勢正しい彼女がヘッドレストに置いてあった毛布を抱えてもたれるように崩れて座っている所を見ると体調が悪いのだろう。
「ベッドで寝た方が良いんじゃないのか」
見下ろす恭次郎に視線を逸らす櫻子。
「お前まさか」
「……家主がどこで寝てたって別にいいじゃない」
大きな溜め息をつく恭次郎は「これはくつろぐ為のソファー、お前の寝床のベッドはあっち」と説教をするが「だって、一人だと広すぎて落ち着かないんだもの」と珍しく小さな言い訳をする。
確かに……櫻子がこのマンションに越して来たのは四代目会長に就任した時の一年程前。流石に都内、歌舞伎町にある櫻子自身が所有しているアパートに“桜東会の会長”を住まわせておける筈もなく。
恭次郎は昨晩から今朝にかけての櫻子の様子を思い返す。ぴったりと体を寄せてくれていたのは体が寒く、体調が悪いせいで心細かったからなのかもしれない。きっと本人も自覚しないで無意識に体を寄せていた。
高校生の時から一人暮らしをしていた櫻子も割り切っているように振る舞ってはいるがその繊細さは恭次郎しか知らない。
「添い寝してやるからベッドで寝な」
年下であり、絶対的な上司でもある彼女。上司どころか自分の生き死にを握っている櫻子の体を容易く抱き上げてしまう恭次郎は「やめて」と怒る彼女の声など聞き入れずにベッドルームへとその身を持って行き、静かに下ろした。
彼女が一人で住んでいる新宿の高層マンションまで送っている最中の恭次郎は「風邪じゃない」と言う櫻子の言葉に色々と……男としての責任について考えを巡らせてしまったがそれも「違う」と本人に否定される。
「会長、御疲れだったのでしょう」
恭次郎が急遽呼び出した櫻子専属のドライバーが声を掛ける。
元は桜東会の三次団体の息子で湾岸で走り屋をしていた若い男。櫻子を慕い、彼女が桜東会四代目会長である事ももちろん知って……彼女自らが恭次郎にも知らせずに会食や密会をしたりしている時にも秘書のように必ず付いて回っていた。
彼女の体調を心配するドライバーの声に恭次郎は僅かに顔をしかめる。
櫻子が語りたくないのならそれまでなのだが、ひと月の内で幾度も様変わりしてしまうデリケートな女性の身。
車内には櫻子の為にいつも置いてあるのかカシミヤの大判のブランケットがあり、恭次郎が胸元までそれを掛けてやった。
・・・
「だから風邪でもそれ以外でも何でもないって言った筈だけど」
恭次郎はシンプルと言う部屋からはかけ離れた、物の無い広い部屋のソファーに座った櫻子を見る。
やはりいつも姿勢正しい彼女がヘッドレストに置いてあった毛布を抱えてもたれるように崩れて座っている所を見ると体調が悪いのだろう。
「ベッドで寝た方が良いんじゃないのか」
見下ろす恭次郎に視線を逸らす櫻子。
「お前まさか」
「……家主がどこで寝てたって別にいいじゃない」
大きな溜め息をつく恭次郎は「これはくつろぐ為のソファー、お前の寝床のベッドはあっち」と説教をするが「だって、一人だと広すぎて落ち着かないんだもの」と珍しく小さな言い訳をする。
確かに……櫻子がこのマンションに越して来たのは四代目会長に就任した時の一年程前。流石に都内、歌舞伎町にある櫻子自身が所有しているアパートに“桜東会の会長”を住まわせておける筈もなく。
恭次郎は昨晩から今朝にかけての櫻子の様子を思い返す。ぴったりと体を寄せてくれていたのは体が寒く、体調が悪いせいで心細かったからなのかもしれない。きっと本人も自覚しないで無意識に体を寄せていた。
高校生の時から一人暮らしをしていた櫻子も割り切っているように振る舞ってはいるがその繊細さは恭次郎しか知らない。
「添い寝してやるからベッドで寝な」
年下であり、絶対的な上司でもある彼女。上司どころか自分の生き死にを握っている櫻子の体を容易く抱き上げてしまう恭次郎は「やめて」と怒る彼女の声など聞き入れずにベッドルームへとその身を持って行き、静かに下ろした。
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