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第5話

花は咲き、露を滴らせ (1) ※

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 差し込んだ手がとろりと濡れる。
 自分の体が大きいせいで添い寝のように隣に横になっても櫻子の事を囲う形になってしまう恭次郎は傷つきやすい繊細な粘膜を丁寧にほぐして、自分を受け入れて貰う為に尽くす。

 は、は、と櫻子の吐息の感覚が短くなると同時に差し込んでいる指先を追い出そうと収縮が伝わり、それをさらに深く愛そうと恭次郎はぐ、と指を押し込んだ。
 小さな短い悲鳴は恭次郎の持つ熱情を煽るばかりでそれを櫻子も分かっていても丁寧に攻めてくる指に歯を食い縛り、耐える。
 そんなに耐えるモンじゃないだろ、と恭次郎は櫻子に言葉を掛ける代わりにもう自分は櫻子を深く愛したいのだと薄く開いたままわななく唇を奪えば少し、櫻子の体の力が抜けた。

 ちゅるん、と難なく挿入される。
 そう言えば最近、よく恭次郎とセックスをしているな、と櫻子は思った。痛みもなく受け入れられるのは彼が丁寧だからと言う分もあるが正直なところ男の味は今、様子を探るようにやはり前戯と同じように優しく腰を進める恭次郎しか知らなかった。

「っく、」
「ここか?」

 ぐり、と大きく腰を動かされてシーツを掴んでいた指先に力が入る。

「あ、っう」

 ぐちぐちと集中的に攻められ、体は勝手に男の精を絞り上げようとする。お互いに単純に快楽を貪ろうとしているだけだと思えば気は楽だったが今夜は何故かシャワーを浴びている恭次郎の事が待ち遠しかった。
 頻度的には全然、欲求不満なんて抱かないくらいの期間なのに胸の奥が切なく、バスローブを一枚羽織っただけの姿でベッドの上で待っていた時間は途方もなく長く感じた。

 古い任侠映画では、大きな抗争やケジメを付ける前の男は必ず“イイオンナ”を抱いていた。闘争や繁殖に懸る人間の根源的な本能がそうさせているのだろうけれど、生きて戻らないかもしれない事を考えると見送る側の情婦も男と同じ気持ちであるのを表現していたのだろうか。

「きょうじろ……」
「ん?」

 ゆさゆさと体を揺さぶって、愛情を与えてくれている男に櫻子は腕を伸ばす。

「少し、このまま」

 抱き締めて欲しい、と腕を絡めた櫻子の細腕が回るように身を屈めた恭次郎は縋りつく一回り小さい体を同じように強く抱き込む。

「腹、キツいか」

 違う、と首を横に振って背中に爪を立てる櫻子にだけ甘い男は抱き込んだまま緩く腰を動かし続けていた。腕の中で乱れてしまえば良いのに、ずっとこうして抱き締めていてやるから、と密着した体を擦り合わせるように次第に深く、櫻子の体を暴き始める。

 同じボディーシャンプーの香りが擦り合わさって鼻腔をくすぐれば恭次郎の熱が増し、櫻子の潤みも増していく。

 美しく整えられた爪の先が恭次郎の背から離れ、身を竦めながら小さくなってしまう体と短く何度も喘ぎ出す体を離さない男はその声をもっと引き出そうと大きく腰を引いて、ゆっくりと奥を突き上げた。その快楽にびくん、と震えた肩が愛おしく、何度も何度も同じように……しかし傷になどさせたくないから、とあくまでもスローペースで深く、愛する。

 深く感じている時の櫻子は体を小さく竦めてしまう癖があるが今がそうだった。小さくなって、体の大きな恭次郎の腕の中で身悶えている。

 そんな彼女の様子が可愛くて、愛おしくてたまらなくなる。

「い、や……やだ、っ」
「はいはい」

 明日は重要な幹部総会がある日でこれでも恭次郎も手加減をしていた。

「ん、っく……っ」

 強い快楽をどこにも逃れさせることの出来ない密着した体位のせいで櫻子のお腹の底からの吐息が恭次郎の胸元を湿気させる。ずっとひくひくと収縮を繰り返す彼女の体を抱いて、抱き潰して……足腰が立たなくなるまでこのままぐちゃぐちゃに、との感情が湧いてしまった所で恭次郎は深呼吸をした。

 愛しているから大切にしたい、自分だけの女でいて欲しい、その二つの感情のせめぎ合い。後者の感情に支配されそうになる前に腕の中で泣きそうになって喘いでいる櫻子の切なげな表情で正気に戻る。

 恭次郎は自分なら、彼女の心を壊す事だって可能なのだと分かっていた。
 底なしの愛欲に沈めて、言いなりにさせて、自分の言葉しか聞こえないようにさせる事など……でも、絶対にそれは出来ない。
 人を支配する術は、彼女の父親から教えられた。
 どうすれば人の心を掌握し、壊せるか。極道者の頂点に立つには銃火器などよりもそれが必要なのだと。

「きょうじろ……っ、くるし、い」
「ああ」

 涙の滲む櫻子の額に口づけを一つ。
 深く果ててしまいたいと訴える体を抱いたまま恭次郎も限界の近い自身の熱を擦り付け、体を強張らせて一際強い悲鳴を上げた愛する彼女の耳元で獣のように唸って果てる。自分でも驚くくらいに噴き出す白く濁った欲望はちゃんとスキン越しで留められ、快楽に震える彼女の体を犯したりはしないが何となく、恭次郎は自分の感情が良くない方に向いているのではないのかとにわかに不安になっていた。

 横になって、もう閉じている足。眠る前にシャワーを浴びるか問う恭次郎に緩く頷いて起き上がる体はだるそうだったがバスローブを渡せば軽く羽織ってパウダールームへと消えて行く。
 そして恭次郎もシャワーを済ませて寝室を覗けば自分の就寝を待つことなく、布団を被ってすっかり眠ってしまっている櫻子がいた。
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