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第1話
享楽に耽る (3)
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その日の昼過ぎ。
持ち物であるアパートのメンテナンスの立ち合いが終わった櫻子は一人、歌舞伎町にある自分が持っている店舗型の風俗店の事務所で泣いている若い女性の話を聞いていた。男性従業員が介入してくれなければ昨夜は酷い目に遭う所だったらしい。
どうやら昨日はそのまま店に泊まって先ほど起きて身支度は整えたものの客からの報復が怖い、と従業員と話をしている内に泣き出してしまったらしい。
「源氏名を変えても暫くはお店に出るのは駄目そう、よね」
ここでの仕事は続けたい、と涙ながらに言う彼女。
キャストの体調を考えた正常な営業をしている優良店、逃せばここより良い待遇の場所はなかなか見つからない。実入りはそこまで良くないがオーナーが女性であり、頻繁に様子を見に来ては話を聞いてくれるし性病検査などの他にも「体は大丈夫?」とよく気を使ってくれていた。
女の性を商品とする手前、細心のケアをするべきだと櫻子自身……女性であるだけで奇異とされる極道者でありながら会長職、人を管理する立場として、どのような小さな場所でも目は行き届かせていたかった。
恭次郎と言う影武者の存在はそんな表と裏の顔を持つ櫻子にとって裏側の世界を睨むもう一揃えの目でもあった。そして今朝、恭次郎と聞いていた池袋の会員制ラウンジの話を思い出す。
「そうね、少しの間……現場が少し変わるけれど、悪いようにはしないから」
櫻子はタオルで涙を拭っている年下の女性に「暫くの間は研修と言う形で他店へ行ってみない?」と提案をする。
今日はもう出勤しなくても良いから、と櫻子のポケットマネーでお昼とタクシー代を出してやり連絡を待っていて欲しいと伝えてアパートに帰す。
稼ぎの良い子を店としても手放したくは無かった。出入りの激しい業界、昨日入ってそのまま音信不通になるのが常の世界。その中でも根気よく仕事と割り切ってくれていた彼女にはこれからも所属していて欲しかった。
それから暫く、事務所のソファーに座って店用のノートパソコンで帳簿を眺めていた櫻子に男性支配人がコーヒーを出しながら「オーナー」と話しかける。彼は元々櫻子が持っている他の店の従業員だったが働きが良かったので今は店舗型の二店舗、この店のすぐ近くにあるもう少し年齢が高い女性たちが所属している店を任せていた。
そちらの女性陣は割ともう、肝が据わっている歴戦の……だったので櫻子も人気の菓子店などの差し入れを持って行く程度。彼女が持っているアパートに住んでいる者も何人かおり、大きな心配事があればその女性たちを通して櫻子の耳にも入るようになっていた。
「ウチはハードなマニア向けの店じゃないのに暴行紛いの事をしたようで」
「……女の子に怖い思いをさせたくはないけれど現実はそうも行かないし、実際はそんな事ばかりだものね。あの子、やる気は十分だから少し研修として他に行って貰うから」
「分かりました。オーナーにはアテが」
「ええ。ちょっと別件で頼みたい事もあって」
「ああ……そちらの話でしたか」
櫻子の“偵察”の意味を知っている彼もまた、桜東会直系の組に属する者だった。ただし、櫻子が桜東会の会長である事は知らず……桜東会の創始者である三島一族の血統を持つだけのフロント企業のやり手経営者、と言う肩書しか知らなかった。
三島櫻子はいわゆる桜東会の執行役員、直系組長たちとはまた別分野の地位のある者、と言う認識。
表向きは、そうだった。
そして従兄で“会長不在となっている”為に代行職をしている恭次郎の情婦……と言う噂があったり、無かったり。一応、法律上では従兄同士が婚姻関係を結ぶことに問題はないが好奇の視線は少なからず存在していた。
持ち物であるアパートのメンテナンスの立ち合いが終わった櫻子は一人、歌舞伎町にある自分が持っている店舗型の風俗店の事務所で泣いている若い女性の話を聞いていた。男性従業員が介入してくれなければ昨夜は酷い目に遭う所だったらしい。
どうやら昨日はそのまま店に泊まって先ほど起きて身支度は整えたものの客からの報復が怖い、と従業員と話をしている内に泣き出してしまったらしい。
「源氏名を変えても暫くはお店に出るのは駄目そう、よね」
ここでの仕事は続けたい、と涙ながらに言う彼女。
キャストの体調を考えた正常な営業をしている優良店、逃せばここより良い待遇の場所はなかなか見つからない。実入りはそこまで良くないがオーナーが女性であり、頻繁に様子を見に来ては話を聞いてくれるし性病検査などの他にも「体は大丈夫?」とよく気を使ってくれていた。
女の性を商品とする手前、細心のケアをするべきだと櫻子自身……女性であるだけで奇異とされる極道者でありながら会長職、人を管理する立場として、どのような小さな場所でも目は行き届かせていたかった。
恭次郎と言う影武者の存在はそんな表と裏の顔を持つ櫻子にとって裏側の世界を睨むもう一揃えの目でもあった。そして今朝、恭次郎と聞いていた池袋の会員制ラウンジの話を思い出す。
「そうね、少しの間……現場が少し変わるけれど、悪いようにはしないから」
櫻子はタオルで涙を拭っている年下の女性に「暫くの間は研修と言う形で他店へ行ってみない?」と提案をする。
今日はもう出勤しなくても良いから、と櫻子のポケットマネーでお昼とタクシー代を出してやり連絡を待っていて欲しいと伝えてアパートに帰す。
稼ぎの良い子を店としても手放したくは無かった。出入りの激しい業界、昨日入ってそのまま音信不通になるのが常の世界。その中でも根気よく仕事と割り切ってくれていた彼女にはこれからも所属していて欲しかった。
それから暫く、事務所のソファーに座って店用のノートパソコンで帳簿を眺めていた櫻子に男性支配人がコーヒーを出しながら「オーナー」と話しかける。彼は元々櫻子が持っている他の店の従業員だったが働きが良かったので今は店舗型の二店舗、この店のすぐ近くにあるもう少し年齢が高い女性たちが所属している店を任せていた。
そちらの女性陣は割ともう、肝が据わっている歴戦の……だったので櫻子も人気の菓子店などの差し入れを持って行く程度。彼女が持っているアパートに住んでいる者も何人かおり、大きな心配事があればその女性たちを通して櫻子の耳にも入るようになっていた。
「ウチはハードなマニア向けの店じゃないのに暴行紛いの事をしたようで」
「……女の子に怖い思いをさせたくはないけれど現実はそうも行かないし、実際はそんな事ばかりだものね。あの子、やる気は十分だから少し研修として他に行って貰うから」
「分かりました。オーナーにはアテが」
「ええ。ちょっと別件で頼みたい事もあって」
「ああ……そちらの話でしたか」
櫻子の“偵察”の意味を知っている彼もまた、桜東会直系の組に属する者だった。ただし、櫻子が桜東会の会長である事は知らず……桜東会の創始者である三島一族の血統を持つだけのフロント企業のやり手経営者、と言う肩書しか知らなかった。
三島櫻子はいわゆる桜東会の執行役員、直系組長たちとはまた別分野の地位のある者、と言う認識。
表向きは、そうだった。
そして従兄で“会長不在となっている”為に代行職をしている恭次郎の情婦……と言う噂があったり、無かったり。一応、法律上では従兄同士が婚姻関係を結ぶことに問題はないが好奇の視線は少なからず存在していた。
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