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第3話
腹ペコ貪欲モンスター (4)
しおりを挟むホテルに入っているサロンでヘアセットとメイクをして貰った私はサロンまで迎えに来てくれた藤堂棗の私設秘書として、いつになく紳士然とした彼のそばに立つ。
仕事は仕事だ。
でも棗は、私のドレスアップした姿を少しも褒めてくれない。
いつもだったら何枚あるのか分からないような饒舌な舌で褒めてくれると言うのに。
「いつまで引きずってるんですか?それでも藤堂の正式な跡目なんですか?」
「翠ちゃん、私をそんなに煽らないで……」
「綺麗な顔が台無し」
「それ、私が翠ちゃんに言うセリフだと思う」
私の軽口に棗が溜め息をつく。
「私はあくまでも仕事でそばにいるだけ。そんなに引き留めておきたいのなら私を本気にさせてください」
「強気だなあ……」
でも、と棗は私の上等なビジネス向けのドレスに包まれた腰に手を添える。
「私はそんな翠ちゃんに一目惚れしちゃったから」
こしょ、と耳をくすぐる調子の良い言葉。
なんて滑らかで、耳触りの良い甘い言葉なのだろうか。
「あ、そう言えばメロンフェアの事すっかり忘れてた」
「もう……翠ちゃんさあ」
「ナツメ、仕事が終わったらメロンスイーツ食べたい」
「はいはい」
これは予防線。
正直言って今、私の股がひりひりしているとか流石に場所的に言えない。
私はこんな駆け引きをあとどれだけ繰り返せば良いのだろう。
「本当にお嫁さんになっちゃえば良いのに」
ほら、すぐそう言って私を惑わせる。
差し出される棗の左手。
彼のその綺麗な手の甲にはほくろが二つ。
その手を取って、控え室へと向かえば顔見知りのブラックスーツや見たことのない藤堂の幹部たちが一斉に棗に対して頭を下げるが一部、年配者が目立った。
「待った。親父の所の黒服が居るってことは」
「当初、若頭が取り仕切るなら俺はいかねえ、との事でしたがどうやらお気持ちが変わったようで」
「また我が儘を……ああ、あとコレ。翠ちゃん。私のボディーガード兼お嫁さんだからみんなよろしくね」
調子が完全に戻ったらしい棗。
適当な私の紹介……といつもの体の大きなブラックスーツの側近が「一応、射手に名字を与えないと」と棗に口添えをする。
「お嫁さんだから藤堂」
「秘書設定だし」
「えー……じゃあ何、鈴木とか?」
おいで、と奥の椅子までずんずんと私の手を引く棗の顔を少し見ればなんだか嬉しそうだった。
まあ、少しくらいならこの茶番に付き合ってやっても良い。
推しの、棗の手作りお菓子が食べられるのなら。
おしまい。
おまけ!!
「メロンスイーツ食べたかった」
「ごめんごめん。親父が翠ちゃんのこと気に入っちゃって……メロンはまた明日、ね?一番豪華なやつ作らせるからさ」
「藤堂会長公認の息子の嫁(仮)とか本当に洒落になんない」
「ウチは強い人間だけにしか用は無いからね」
「そんなに兵隊集めて、どっかに戦争でも仕掛けるつもりなんですか?」
夜のお風呂。
ホテルが用意していた入浴剤をブチ込んだ大きな湯船の中で私と棗は膝を抱えて反省会をしていた。
メイクも何もかも落としちゃって、爪以外はさっぱりと素の状態の私。彼も同じように、すっかりいつもの私にだけ見せるナツメの姿になっていた。
「翠ちゃんってそう言う匂いに敏感?」
「前からですよ、ずっと前から匂ってた。たとえば……私の命が狙われていると分かったときから」
「……ふふっ」
「笑ってごまかすな」
「いやいや、ああもうどうしたら翠ちゃんの事を私のお嫁さんに出来るんだろう。幹部級しか知らない情報の漏えいなんてそれこそ“洒落にならない”し」
藤堂は新興の組織。
どちらかと言うとマフィアに近い。
必中の射手である私をそばに置きたがる理由の真相や、如何に。
おまけ おしまい。
***
これにて一度、完結処理をしますがこの後は不定期、気まぐれな投稿に変わります。
棗はちょっぴり不安定な男なんですよね。
執着よりも病み気味な感じで終わっちゃってますがお話はまだ続きますので一先ず、お付き合いしていただきありがとうございました。
また次回!!
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