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第2話
繊細デリケートヤクザ (3) ※
しおりを挟む結局、夕飯どころか泊まった。
今は寝間着のローブを着こんで棗と映画鑑賞をしながらソファーの上で崩れている。
「翠ちゃんちょっと酔っぱらってるでしょ。お酒弱い?」
違う、と首を横に緩く振る。
何と言うか夢見心地のような、だって推しが夕飯を作って自分に振る舞ったのだ。いつか絶対に私、彼の熱狂的なファンに刺されると思う。
「慣れない事させちゃって疲れた、かな」
一番最初は連れてこられた猫のように警戒していた私がこのザマだ。
オットマンに長い足を乗せている彼の隣で猫のように横になっている私の首筋にいつしか棗も触れていて私がくすぐったくて身じろぎをしたら何故か棗は驚いていた。
「ごめん、勝手に触って」
「別に……気に入らなくて殺してやろうと思えばいつでも出来ますし」
「私とした事がひと肌恋しくなっちゃったのかな」
孤独さを、見る。
見上げた藤堂棗はブランデーグラスに唇を当てたままぼんやりと映画を見ていて。それがこの男の持つ磨き上げられた嘘八百の口車なのか、それとも本当に……まどろっこしい事は今の私には見抜けない。お酒が入ってるのは確かだし。
「言い寄って来る女なんて腐るほどいるくせに」
「どうだろうね……翠ちゃんだってパトロンの一人や二人、いなかったの?」
「さあ、どうでしょうね」
はぐらかし合い、いつしか私は棗に組み敷かれていた。
唇が掠める程度のキスに意味を見出そうなんて愚かな真似はしない。代わりに頬ずりをして一夜の上っ面の愛情を供する。
今だけ、互いの体を貪り合う。
中途半端に脱がされたローブは棗も同じで、ぐずぐずとしたセックスをどれくらいしていただろう。ヤりづらいからベッドルームに移動して、遅漏がなんだと抜かす男に付き合っていた。
「あ゛、あ」
喉から出てしまう声。
苦しさを快楽にしてしまいたくはなかったけれど棗の肉質をゆっくりと教え込まされていた私は多分、他の男じゃもう満足できない……かもしれない。
「翠ちゃん」
すべりの悪くなった頬にまた、棗は頬ずりをする。
彼なりの愛情の示し方なのだろうか。
ぴとり、とくっついた頬と頬。
「汗かいちゃったね」
当たり前だ。
日常のランニングとかトレーニング以外の体への負荷と激しい興奮、汗をかいたって当たり前。
棗は私を抱き寄せて本格的に抱き締めると腰をかがめて私を執拗に掻き、突く。逃げたりしないのに、何を考えているんだか。
「ナツメ……っこれ、ヤ、だ」
「痛い?」
「そう、じゃなくて」
この男の抱き方は勘違いをさせる。
性欲の発散の為だけに手酷く抱くなら幾らだって方法はあるんだから、どうしてこんなに密着する必要が……ああ“ひと肌が恋しくなった”だったっけ。
ただ、こんな抱き方をされたら――私も、戻れなくなりそうだった。
「苦しかった?」
「ん……」
「そっかそっか。ごめん、翠ちゃん頑丈だから力任せに抱き締めちゃった」
興奮に張る筋肉質な腕、この男も普段は相応に鍛えているのだろう。離れた体は薄らと赤く、腹から息をしてなおも私の胎の中を暴こうとして緩く揺すっていた。
「翠ちゃん可愛い」
吐息の間を埋める言葉。
推しに可愛いだなんて言われて、こんな状況でどうしろと言うんだ。
「翠ちゃんってさ、本当は洋服とかメイクに対して強い頓着ないでしょ……職業病みたいな?だからどんなオンナにもなれる。でも今は……」
つつ、と私の胸に滲んでいた汗を指先でなぞった男からの言葉はそれ以上、無かった。
言いたい事を言え、と言う義理もないけれど何よりもその行動は雄弁だった。
内臓を引きずり出されるんじゃないか、と言うストロークに背中がぞくぞくとしてしまう。こうやって棗が深く、私を揺すり始めるともう射精が近いと言う事を知ってしまっている。
丹念に、何度も……腹の一番奥なんて感じなかった筈なのにこの男のお膳立てにまんまと乗せられて喘いでしまいそうになる。
「また我慢してる」
首まで真っ赤だよ、と言われても私はこれ以上、この男に深入りしたら駄目だと――これが、恋愛感情なのだと気づいた頃には手遅れだったなんて事態、避けたい。
それに、そう考えた私の僅かに引けてしまった腰に気づかない男じゃなかった。
「翠ちゃん、何考えてるの」
熱を含んだ男の声が私の思考に入り込む。
屈まれて、背中ごと深く抱き込まれて、揺すられる。
「ひ、あ゛」
「翠ちゃん、本当はこうされるの好きだよね」
認めない。
絶対に、認めたくない。
「う……あ、や、だ……やめ、きらいッ」
「私もこうするのが一番好きなんだけど」
棗の腕に爪を立てて、力を籠めても緩んでしまう。
「いやだ……、こんなの……っ、い、や……好きになんか、ナツメは……っ」
名前を呼んだのが間違いだったのか、それとも。
「ひッ、あ、あ……や、いく、もう、やだ、しない……で、おく、くるし、い」
棗はちゃんとスキンを付けていたし、痛いと言う言葉に敏感だった。私が痛がるような素振りを少しでも見せたりすれば揺するのを止めてくれる。
「やだ、ナツメ……っ、もう、これ以上は……っあ、あ゛」
「っ、ぐ」
感覚が鈍い腹の奥でも、棗が射精をした事が分かった。
彼のくぐもった呻き声、震えた体、痛いくらいに私を抱き締めて……離してくれない。
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