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第1話

スイちゃんのおしごと (8) ※

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 推しの男に呆気なく、手だけでイかされてしまった。
 力が入らず、だらしなく開いている私の足の間で嬉しそうにしているのがまた憎たらしい。

「仕事柄、結構過激な風俗店にも顔を出すけど……翠ちゃんならオモチャとか使ったら体力もあるし、楽しいんじゃないかな」

 体を起こした男は私の中にまた指を挿入してちゅくちゅくと音を立てさせながら「まだひくひくしてる」と言葉にする。
 だから全てを言葉にするな、と言いたい所だけど――言えない。言える訳がない。

 この推しの男とセックスをしている事を私は完全に受け入れてしまっていた。
 これはほだされているとか、そう言うのなのだろうか。

 快楽と思考がぐるぐるとまざって不快になる前に、私は一夜限りのただの男女のしょうもない遊びと割り切る事にした。
 でも、この男……本当に自宅に女を連れ込んでいないとしたらスキンなんて持っていないんじゃないだろうか。

 それはそれで面倒な事になったな、と急に冷静に考えてしまう。

「昨日、コンビニで買ってきちゃったんだよね」

 棗の手が私を越えてベッドサイドのテーブルに伸びる。

「翠ちゃんのこの……ああもうぐしょぐしょに濡れちゃってるけど、下着を買うついでに目に入ってさ。初めて部屋に来てくれた女性にこんなことするのは止めようと思っていたんだけど、やっぱり買っちゃって」

 雑に破られる箱の包装。
 まだ肩で息をしている私の目の前で恥ずかしげもなく箱を開けて一つ取り出すと本当にソレは私だけに性欲を主張したのか、薄い一枚があっと言う間に装着される。

「でっか……」
「そう?それならもう少しほぐさないと痛いか」

 してあげるから横になって、と思わず体を起こしてしまった私に棗は真摯にエスコートをする。
 肌着もブラジャーも剥されて、男の口車にいいように乗らされてしまう。この男が他の女に勃たないとか、確かめようがないのに。

「もう少し、力抜いて……息して」

 私には大きすぎると思う推しの男の熱の塊。
 みちみちと私の入り口が軋む。
 いくら指でどうにかほぐしても、実際に挿入される質量は指なんかじゃ比べ物にならなかった。

「は、う……や、だ……」
「痛い?」
「ちが、ッ、挿れるなら、い、れて……焦らさないで」

 優しさなのか、意地が悪いのか分からないくらいにゆっくりとした動き。むしろ痛い方がまだマシだったけれど私の言葉に棗の体がぞわ、と震えた気がした。
 これは……本当にこの男は若干、特殊な性癖を持っているのかもしれない。

 そしてずぷり、と遠慮なく押し進められた男の筋肉質な腰。

「ひ、」

 その急な質量と熱に及び腰になった私の腰を掴む大きな手。
 いつも見ていた推し、の綺麗な手。

「私に媚びない、挿れても泣き喚かない。気持ち良い癖に悔しそうに喘ぐのを必死に堪えて……翠ちゃんはイイオンナだね」
「な、に言って」
「私も……隠さなくてももういっか。すごく久しぶりだから手加減出来ないかもしれない。だから喉を枯らすまで喘いで、ぐちゃぐちゃになって、私で気持ちよくなって……ね、翠ちゃん」

 ず、ず、と棗の腰が動く。

「あ、う」
「どこが気持ちいいか、教えて?一緒にいっぱい気持ちよくなればきっと今よりもっと仲良く……そうしたら翠ちゃんも私のお嫁さんになってくれるかもしれないし」

 そうだった。この男……私の事を嫁にするだのと言っていたんだっけ、と意識が少し余所に向いてしまった私の胸の先に棗の歯が当たる。

「噛む、な゛……ッ」

 切ったり傷付けたら許さない、と言いたいけれどこの男は用意周到に私を寝かせた段階で背中にクッションを挿し入れていたから背中は勝手に反って胸を突き出してしまう。

「マシュマロみたいに柔らかそうだったから、つい。翠ちゃんって上手に鍛えてるんだね。普段からトレーニングしていてこの程度残っているなら本当は結構ボリュームがあったのかも」

 冗談だよ、と笑っている棗を見上げる。
 よくそうやって喋りながらピストン出来るな、と受け入れている側の私は短く言葉を返すだけでいっぱいいっぱいだ。

「ああ、気持ち良いね」

 妙に熱の籠った感嘆の深い溜め息。
 こんな状態に至る前のビジネスとしての会話の声とは全く違う色と艶を纏った……多分、藤堂棗の本性の声。
 じっとりと重く、腰に響く。

「乳首もずっと腫らしちゃって」

 クッションのせいで曝け出したままどうにもならない胸に唇を這わせて私を焦らすように……私が、快楽を欲しがるように仕向けている。

 そんな手に、乗るワケな、い。

「ふ、う……ッ、んん」
「もっと感じて」

 ぐ、と私の体を押し潰すように棗の体重が乗る。
 筋肉量が多いのは素肌を見ただけで分かったけれどやはり脂肪が少ない分、見た目よりも重い。隙間など作らせないとばかりに体が密着して、棗の熱の先端がまるで私の子宮の入り口をねぶるようにずっと揺するから、段々と気持ち良いような気がして来てしまう。

 こんなの、知らない。
 挿入されて、繰り返されるピストンに普通にイクのとは多分違う、私がまだ知らない事をこの男は見抜いていて、教え込もうとしている。

「やめ、て……それ、いやだ」
「そうでも無さそうに見えるけど」

 息が熱くて、苦しい。
 押し潰されているのもあるけれど私だって体は鍛えてるんだからこんな事で……胸が、苦しくなるなんて。

「いや、いやなの……奥、は」
「ナカの方、凄い事になってる」
「もうイって、出すなら出して、よ……やだ、おかしく、なる」

 逃れられない。
 奥深くまで貫いている熱の塊がずっと私を執拗に揺さぶっている。

「さっきから甘イキしっぱなし。少し痙攣した後にぎゅ、って締まるからすぐ分かる。ねえ、翠ちゃんが私のお嫁さんになってくれたら毎日美味しいお菓子とコレが味わえるんだけどな」

 ぐり、と肉の塊を擦り付けられて流石に「馬鹿じゃないの」と私は睨みながら棗に言う。

「そう、そう言う所が好き。強気な所が可愛くて、可愛くて……もっと大切にしてあげたくなる」

 そこは普通、壊したくなるとかだろう。
 なのにこの男は……一体何なんだ。

「一発ヤったら彼女ヅラなんて君はしない。私もそう……でも、ふふ、こんなに体の相性が良かったなんて。それに翠ちゃんの事は本当にひと目惚れだったんだ。だから振り向いて貰いたいからこうして私からの愛情を」

 どうかしてる。
 私をこんな状態にしておいてまだ悠長に喋るつもりなのか。

「裏社会で生き残っている者なんか、頭のどっかが壊れている……そうだろう?私もそう。ちょっとだけおかしいのは自覚してるんだけど……あ、またイッた?言い忘れていたんだけど私、遅漏気味でもあるんだよね」

 射精出来ない訳でもないし精神的な物かも、と言う棗に私はもう何も言えなかった。

「イク時にちゃんと言えたらご褒美にイイモノ作ってあげる。翠ちゃんの為だけに……そうだね、オトナの味のムースショコラなんてどう?少しお酒を効かせた香りの良いやつ」

 だから今、ここで、そんな話をしないで欲しい。
 しかもそれ、すごく美味しそうだし。

「そうだ、ふわふわのマシュマロを浮かべたチョコレートドリンクも良いね」

 密着されて、耳元でずっと囁かれて。
 甘すぎる誘惑は私の理性を壊しにかかる。
 もう良い、今だけで良いからこの男をどうにかしなきゃ、と自分が達してしまえばどうにかなると私は思ったのだけど……それはとんだ浅はかな考えだった。
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