上 下
7 / 21
第1話

スイちゃんのおしごと (7) ※

しおりを挟む
 私はローブの紐を解いて肌着とショーツだけの姿で飛び退いた。
 それ以上近づいたら殺す、と寝室に置き去りだったハンドガンの事を気にしつつも素手でも私たちは人をどうにかしてしまう術を知っている。私はそれが“出来てしまう”人間だ。

 この男だってそれくらい、分かっている筈なのに。

「流石だね」

 でも、と男は続ける。

「カネで買わないと手に入らないと言うのなら……そうするしかないだろう?まあ、その方がシンプルで君らしいけどね」
「どうして私に肩入れする」
「ひと目惚れ、って言ったら信じてくれる?」

 コイツ、と思っていれば私の殺意を含んだ視線を躱してローテーブルに置いてあった自らのコーヒーカップを手にしてしまう。
 その余裕さがまた私の神経を立たせるけれどここは藤堂棗の部屋。そのソファーの隙間にハンドガンの一挺くらい隠し持っていたっておかしくない。

 私は今、非常に不利だ。

「私ね、自分と同等か、あるいはそれくらい強い女性にしか勃たないんだ」
「朝から特殊な性癖を暴露されても困る」
「ストレス発散とか、そんな程度に思ってくれて良い。ちゃんとスキンは着けるから」
「だから私は了承したとは言ってい、」

 視線の先にあったモノ。
 タイトなストレッチ素材のスラックスのせいで分かってしまった困惑する他に無いような状態の膨らみ。それなのに普通に会話をしているのもどうかと思う。

「一人で抜いたら良いじゃない」
「うーん……そっか、ここまで来ればイケそうだよね」

 こんなの、こんなの絶対におかしい。
 でも、私は……。

「……カネは返す。いらない……から」

 私もどうかしている。
 どう足掻いたって私は屑のような人間で、命なんて本当はいつ絶えてしまったって良い存在。
 そんな私を求めるのなら。

 ・・・

 もう、自棄になっていた。
 この男、藤堂棗に出会ってしまったから。
 全部、この男が悪いのだ。

「ちょっと、やめ」

 ベッドの上で私を押し倒した力はそんなに強くなかったけれど、上機嫌な男は思いっきり私の膝を掴んで開かせてきた。

 脱がせるでもなく、ショーツの上から舐められる。
 彼の唾液なのか、私から滲み出た物なのか、濡れているのが自分でも分かった。

「ここ、舐められるの初めて?シームレスな下着ってエッチだよね。ごちゃごちゃしたレースが無い代わりにこんなにくっきりと」
「ひ、ッ」

 知らない舌の質感。
 まだ布が一枚隔たっていると言うのにどうしてこんなにも気持ち良いのか。
 私の燻っていたフラストレーションの発散と、男の久しぶりに勃ったと言う性欲の発散が合致した。ただ、それだけなのに。

「ん、ん……っ」
「声かわいい」

 そうだ、この男はやたらと言葉を……人を褒める。

「せっかくだし、もっと気持ちよくなれるようにゆっくり、ゆっくりしよう?時間は三日もある事だし……ああ、今日はジンジャーブレッドを焼く予定があったか」

 私の股の間に顔を落としたまま言う事じゃない。

「それとそうだ。偽名でも良いから君の名前、教えてくれない?あと私の事もナツメって呼び捨てて良いから」
「……すい、翡翠の翠の字」
「ああ、だから“S”って名乗ってたのか。翠ちゃん、か。うん、良いね」

 偽名は片手じゃ足りないくらい持っていた。
 でも翠と言う名前は……そんな話、この男にしたってなんの意味もない。幾つかある偽名の内の一つ、と思わせておけばいい。

「ジンジャーブレッド、明日一緒に焼こうよ。翠ちゃんはお菓子作りした事ある?」

 私はこうして会話をしている最中でも恥ずかしいくらいに濡れていくのが分かった。憧れていた推しの男とセックスをしている、と言う事実を前に股からよだれを垂らしている馬鹿なオンナに成り下がって――でもこれは大人同士の遊び、ストレスの発散。

「もう、そんな所でしゃべ、る……なっ」
「感じちゃった?」

 まるで聞いちゃいない。

「い、や」

 ぢゅ、と布の上から吸われてしまう。
 こっちは足を広げて崩れるように座って男を見下ろしている、逃げようと思えば蹴りの一つでも入れるなりそのまま太ももで締め上げてしまえばいいのに、痺れるような快楽に抗えない。
 何度も舐められて、吸われて、指でごしごしと扱かれてはそんなの、駄目に決まっている。

「やめ、て……こすら、ないで、い゛、あ……い、く」
「指も入れてないのにもう駄目そう?まあ私たちみたいな商売をしていれば手遊びくらいはするよね」

 強い闘争本能が性欲に傾く時は確かにあるけれど、今それを指摘するように言わなくたって。

「どう?指、普段はどれくらい挿れるの?深く?それとも浅い所でこうしてる?」

 藤堂棗は言葉の使い方に長けている。
 人を翻弄させる事に慣れている。

「ああ、凄いね……良い。翠ちゃん可愛い」

 どこのAV男優だ、と言いたいくらいだった。
 ショーツをよけて、私のぐちゃぐちゃに濡れている所に挿入される指の先。まだごく浅く、探るように触れてくる行為が優しくて、もどかしい。

「い、や……っあ」
「クリトリスもちゃんとごしごししてあげるから、一回イっておこうか」

 中に差し込まれた指が入り口を広げようと、更にもう片方の手の指の腹はクリトリスを撫でまわして一気に私を追い立てる。

「や、やだ、イ、く……本当に、だめ、いやッ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

スパダリな義理兄と❤︎♡甘い恋物語♡❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
IT関係の会社を起業しているエリートで見た目も極上にカッコイイ母の再婚相手の息子に恋をした。妹でなくわたしを女として見て

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

溺愛婚〜スパダリな彼との甘い夫婦生活〜

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰で才徳兼備な眉目秀麗な彼から告白されスピード結婚します。彼を狙ってた子達から嫌がらせされても助けてくれる彼が好き

クールな御曹司の溺愛ペットになりました

あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット やばい、やばい、やばい。 非常にやばい。 片山千咲(22) 大学を卒業後、未だ就職決まらず。 「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」 親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。 なのに……。 「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」 塚本一成(27) 夏菜のお兄さんからのまさかの打診。 高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。 いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。 とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

処理中です...