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第1話
スイちゃんのおしごと (7) ※
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私はローブの紐を解いて肌着とショーツだけの姿で飛び退いた。
それ以上近づいたら殺す、と寝室に置き去りだったハンドガンの事を気にしつつも素手でも私たちは人をどうにかしてしまう術を知っている。私はそれが“出来てしまう”人間だ。
この男だってそれくらい、分かっている筈なのに。
「流石だね」
でも、と男は続ける。
「カネで買わないと手に入らないと言うのなら……そうするしかないだろう?まあ、その方がシンプルで君らしいけどね」
「どうして私に肩入れする」
「ひと目惚れ、って言ったら信じてくれる?」
コイツ、と思っていれば私の殺意を含んだ視線を躱してローテーブルに置いてあった自らのコーヒーカップを手にしてしまう。
その余裕さがまた私の神経を立たせるけれどここは藤堂棗の部屋。そのソファーの隙間にハンドガンの一挺くらい隠し持っていたっておかしくない。
私は今、非常に不利だ。
「私ね、自分と同等か、あるいはそれくらい強い女性にしか勃たないんだ」
「朝から特殊な性癖を暴露されても困る」
「ストレス発散とか、そんな程度に思ってくれて良い。ちゃんとスキンは着けるから」
「だから私は了承したとは言ってい、」
視線の先にあったモノ。
タイトなストレッチ素材のスラックスのせいで分かってしまった困惑する他に無いような状態の膨らみ。それなのに普通に会話をしているのもどうかと思う。
「一人で抜いたら良いじゃない」
「うーん……そっか、ここまで来ればイケそうだよね」
こんなの、こんなの絶対におかしい。
でも、私は……。
「……カネは返す。いらない……から」
私もどうかしている。
どう足掻いたって私は屑のような人間で、命なんて本当はいつ絶えてしまったって良い存在。
そんな私を求めるのなら。
・・・
もう、自棄になっていた。
この男、藤堂棗に出会ってしまったから。
全部、この男が悪いのだ。
「ちょっと、やめ」
ベッドの上で私を押し倒した力はそんなに強くなかったけれど、上機嫌な男は思いっきり私の膝を掴んで開かせてきた。
脱がせるでもなく、ショーツの上から舐められる。
彼の唾液なのか、私から滲み出た物なのか、濡れているのが自分でも分かった。
「ここ、舐められるの初めて?シームレスな下着ってエッチだよね。ごちゃごちゃしたレースが無い代わりにこんなにくっきりと」
「ひ、ッ」
知らない舌の質感。
まだ布が一枚隔たっていると言うのにどうしてこんなにも気持ち良いのか。
私の燻っていたフラストレーションの発散と、男の久しぶりに勃ったと言う性欲の発散が合致した。ただ、それだけなのに。
「ん、ん……っ」
「声かわいい」
そうだ、この男はやたらと言葉を……人を褒める。
「せっかくだし、もっと気持ちよくなれるようにゆっくり、ゆっくりしよう?時間は三日もある事だし……ああ、今日はジンジャーブレッドを焼く予定があったか」
私の股の間に顔を落としたまま言う事じゃない。
「それとそうだ。偽名でも良いから君の名前、教えてくれない?あと私の事もナツメって呼び捨てて良いから」
「……翠、翡翠の翠の字」
「ああ、だから“S”って名乗ってたのか。翠ちゃん、か。うん、良いね」
偽名は片手じゃ足りないくらい持っていた。
でも翠と言う名前は……そんな話、この男にしたってなんの意味もない。幾つかある偽名の内の一つ、と思わせておけばいい。
「ジンジャーブレッド、明日一緒に焼こうよ。翠ちゃんはお菓子作りした事ある?」
私はこうして会話をしている最中でも恥ずかしいくらいに濡れていくのが分かった。憧れていた推しの男とセックスをしている、と言う事実を前に股からよだれを垂らしている馬鹿なオンナに成り下がって――でもこれは大人同士の遊び、ストレスの発散。
「もう、そんな所でしゃべ、る……なっ」
「感じちゃった?」
まるで聞いちゃいない。
「い、や」
ぢゅ、と布の上から吸われてしまう。
こっちは足を広げて崩れるように座って男を見下ろしている、逃げようと思えば蹴りの一つでも入れるなりそのまま太ももで締め上げてしまえばいいのに、痺れるような快楽に抗えない。
何度も舐められて、吸われて、指でごしごしと扱かれてはそんなの、駄目に決まっている。
「やめ、て……こすら、ないで、い゛、あ……い、く」
「指も入れてないのにもう駄目そう?まあ私たちみたいな商売をしていれば手遊びくらいはするよね」
強い闘争本能が性欲に傾く時は確かにあるけれど、今それを指摘するように言わなくたって。
「どう?指、普段はどれくらい挿れるの?深く?それとも浅い所でこうしてる?」
藤堂棗は言葉の使い方に長けている。
人を翻弄させる事に慣れている。
「ああ、凄いね……良い。翠ちゃん可愛い」
どこのAV男優だ、と言いたいくらいだった。
ショーツをよけて、私のぐちゃぐちゃに濡れている所に挿入される指の先。まだごく浅く、探るように触れてくる行為が優しくて、もどかしい。
「い、や……っあ」
「クリトリスもちゃんとごしごししてあげるから、一回イっておこうか」
中に差し込まれた指が入り口を広げようと、更にもう片方の手の指の腹はクリトリスを撫でまわして一気に私を追い立てる。
「や、やだ、イ、く……本当に、だめ、いやッ」
それ以上近づいたら殺す、と寝室に置き去りだったハンドガンの事を気にしつつも素手でも私たちは人をどうにかしてしまう術を知っている。私はそれが“出来てしまう”人間だ。
この男だってそれくらい、分かっている筈なのに。
「流石だね」
でも、と男は続ける。
「カネで買わないと手に入らないと言うのなら……そうするしかないだろう?まあ、その方がシンプルで君らしいけどね」
「どうして私に肩入れする」
「ひと目惚れ、って言ったら信じてくれる?」
コイツ、と思っていれば私の殺意を含んだ視線を躱してローテーブルに置いてあった自らのコーヒーカップを手にしてしまう。
その余裕さがまた私の神経を立たせるけれどここは藤堂棗の部屋。そのソファーの隙間にハンドガンの一挺くらい隠し持っていたっておかしくない。
私は今、非常に不利だ。
「私ね、自分と同等か、あるいはそれくらい強い女性にしか勃たないんだ」
「朝から特殊な性癖を暴露されても困る」
「ストレス発散とか、そんな程度に思ってくれて良い。ちゃんとスキンは着けるから」
「だから私は了承したとは言ってい、」
視線の先にあったモノ。
タイトなストレッチ素材のスラックスのせいで分かってしまった困惑する他に無いような状態の膨らみ。それなのに普通に会話をしているのもどうかと思う。
「一人で抜いたら良いじゃない」
「うーん……そっか、ここまで来ればイケそうだよね」
こんなの、こんなの絶対におかしい。
でも、私は……。
「……カネは返す。いらない……から」
私もどうかしている。
どう足掻いたって私は屑のような人間で、命なんて本当はいつ絶えてしまったって良い存在。
そんな私を求めるのなら。
・・・
もう、自棄になっていた。
この男、藤堂棗に出会ってしまったから。
全部、この男が悪いのだ。
「ちょっと、やめ」
ベッドの上で私を押し倒した力はそんなに強くなかったけれど、上機嫌な男は思いっきり私の膝を掴んで開かせてきた。
脱がせるでもなく、ショーツの上から舐められる。
彼の唾液なのか、私から滲み出た物なのか、濡れているのが自分でも分かった。
「ここ、舐められるの初めて?シームレスな下着ってエッチだよね。ごちゃごちゃしたレースが無い代わりにこんなにくっきりと」
「ひ、ッ」
知らない舌の質感。
まだ布が一枚隔たっていると言うのにどうしてこんなにも気持ち良いのか。
私の燻っていたフラストレーションの発散と、男の久しぶりに勃ったと言う性欲の発散が合致した。ただ、それだけなのに。
「ん、ん……っ」
「声かわいい」
そうだ、この男はやたらと言葉を……人を褒める。
「せっかくだし、もっと気持ちよくなれるようにゆっくり、ゆっくりしよう?時間は三日もある事だし……ああ、今日はジンジャーブレッドを焼く予定があったか」
私の股の間に顔を落としたまま言う事じゃない。
「それとそうだ。偽名でも良いから君の名前、教えてくれない?あと私の事もナツメって呼び捨てて良いから」
「……翠、翡翠の翠の字」
「ああ、だから“S”って名乗ってたのか。翠ちゃん、か。うん、良いね」
偽名は片手じゃ足りないくらい持っていた。
でも翠と言う名前は……そんな話、この男にしたってなんの意味もない。幾つかある偽名の内の一つ、と思わせておけばいい。
「ジンジャーブレッド、明日一緒に焼こうよ。翠ちゃんはお菓子作りした事ある?」
私はこうして会話をしている最中でも恥ずかしいくらいに濡れていくのが分かった。憧れていた推しの男とセックスをしている、と言う事実を前に股からよだれを垂らしている馬鹿なオンナに成り下がって――でもこれは大人同士の遊び、ストレスの発散。
「もう、そんな所でしゃべ、る……なっ」
「感じちゃった?」
まるで聞いちゃいない。
「い、や」
ぢゅ、と布の上から吸われてしまう。
こっちは足を広げて崩れるように座って男を見下ろしている、逃げようと思えば蹴りの一つでも入れるなりそのまま太ももで締め上げてしまえばいいのに、痺れるような快楽に抗えない。
何度も舐められて、吸われて、指でごしごしと扱かれてはそんなの、駄目に決まっている。
「やめ、て……こすら、ないで、い゛、あ……い、く」
「指も入れてないのにもう駄目そう?まあ私たちみたいな商売をしていれば手遊びくらいはするよね」
強い闘争本能が性欲に傾く時は確かにあるけれど、今それを指摘するように言わなくたって。
「どう?指、普段はどれくらい挿れるの?深く?それとも浅い所でこうしてる?」
藤堂棗は言葉の使い方に長けている。
人を翻弄させる事に慣れている。
「ああ、凄いね……良い。翠ちゃん可愛い」
どこのAV男優だ、と言いたいくらいだった。
ショーツをよけて、私のぐちゃぐちゃに濡れている所に挿入される指の先。まだごく浅く、探るように触れてくる行為が優しくて、もどかしい。
「い、や……っあ」
「クリトリスもちゃんとごしごししてあげるから、一回イっておこうか」
中に差し込まれた指が入り口を広げようと、更にもう片方の手の指の腹はクリトリスを撫でまわして一気に私を追い立てる。
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