R18『猫の王と鈴の首飾り ~大人の女性の為の逆、猫吸い譚~』

緑野かえる

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第十一話、すりあう

(二)

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 そうして、瞬く間に一日が過ぎてゆく。

「黒光さんから“もしかすると”と言うお話は聞いていましたが本当に髪の毛、長くなってしまうなんて」

 突然長くなってしまった髪に慣れず、出して貰った脇息に体を預けて国芳さんの部屋で夜、晩酌の肴になっていた。
 私との約束でお披露目が終わるまでは回を重ねるごとに激しくなってしまっている夜の営みを禁止していたのと、私の体の内側を傷つけないようにとの隔てる一枚のエチケットを使い切ってしまっていたので特に何もない夜だった。

「神無月……出雲へ発つ前に神もお前を仕立ててやりたかったんだろうな」

 私の傍らで胡坐をかいている国芳さんは私の肩にかかっていた髪のひと房を手に取って眺めて……そのまま匂いを吸っていた。吸われる行為にもすっかり慣れてしまって、私は特に気にしないでお話を聞き続ける。

「披露目を終え、神無月の十月が過ぎればあっという間に年末が……すず子、お前も忙しくなるぞ」
「神社のお手伝いですね。ほとぼりもきっと」
「ああ、宮司の爺さんが期待しているようでな……まずは神社の社務所の奥で授与品の整理とすす払いの準備をしながら十一月中は七五三の詣でもうで、気が付けば晦日みそかを過ぎて年も明けて三が日も過ぎている」

 確かに、ニュースとかで秋が深まる前から大きな神社ではもう年末年始の準備を進めていると取り上げられている。あの神社も地域に根差した場所で、年末年始には臨時でバイトの巫女さんも雇うそう。

「国芳さんの方も、お願い事が」
「ああ、その時には玉の手も借りるんだがなかなかの量でな」
「そうなんですね……私も頑張らないと」

 詰めた話はまた披露目の後に、と言う国芳さんに頷いて私も自分の髪の束を手に取る。
 お披露目が終わっても、何となく切りたくない気がする。せっかく神様が伸ばしてくださったから暫く、お団子にして結っても良いかもしれない。

「気に入ったようだな」
「ええ、こんなに長くした事は無かったので」

 ふ、と息をこぼして笑う国芳さんが猫足の膳台に盃を置く。

「あ、」

 駄目、と言えなかった。
 素肌を密に重ねるのは駄目だと言ったけれど、匂いだけは許してしまっていたから……でも、夜にこんな事をされてしまうともどかしい。

「んん」

 唇まで擦り、重ねる人。
 本当はしたいのかもしれない。

 どうしよう、と私が悩みだした所で唇を離してくれたけれどもやもやしてしまうのは先日の“発情期”などと国芳さんが言ったせいで、あの夜の事が記憶に濃く、残ってしまっていた。
 国芳さんだってきっと今、私と同じことを考えていると思うけれど――私と国芳さんの間に命が宿ることはない。それでも、私が傷つかないようにしてくれている人に言うのはやめておく。

 そのまましても、と言う思いは国芳さんの真っ直ぐな誠意を台無しにしてしまいかねない。

「私が……買いに行きましょうか?」

 枕元に置いてはあるものの、中身が空っぽの小箱に視線を移した私に国芳さんが息を飲んだのが分かった。

「いや、それは」

 何が言いたいのかは分かる。
 でも別に、今はセルフレジだってあるし、ささっと会計を済ませてしまえるから通販とかじゃなくてもそこまでハードルは高くない。

 口ではお披露目を過ぎるまで駄目、とは言ったけれど翌朝に私が使い物にならなくなるような激しいことをするのが駄目だと言うだけで、普通にするくらいの体力はある。

「修行の一環だと思う事にしていたんだが」

 わしわし、と自らの癖っ毛を珍しく掻いている国芳さん。三角の耳があちらこちらにせわしなく動いている。

「それなら私が邪魔をしては駄目ですね」
「すず子……」

 ちょっと項垂れてしまう国芳さんがおかしくてつい、笑ってしまう。
 そんな仕草に愛してくれているのだな、と感じているけれど国芳さんがどこまで我慢できるのかと言うのも気になる。

 唇を重ねただけの夜。
 朝の光の眩しさに隣を見れば几帳の隙間から差し込んだ光に国芳さんの癖っ毛がきらきら光って、白く見える。
 不思議な三色の色合い、影になっている所は赤茶のような、黒っぽいような……でもそれは、とても綺麗な色だった。
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