【R18】『猫の王と鈴の首飾り ~大人の女性の為の逆、猫吸い譚~』

緑野かえる

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第九話、すず子の首飾り

(四)

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 早朝、私の肩に張り付くようにじと目でお化粧をしている私を見ているたまちゃんを置いて現世に行くのが心苦しくもあるけれどーー私は色々とやらなくてはいけない手続きを済ませてくる為に西の門の扉を押し開く。
 国芳さんが言っていたように全てがなんだかどうにかなっていて、私に関わった人たちみんなが片付けやちょっとした事を率先して手伝ってくれて、あっという間に物事が片付いて行くので私も粛々と手続きを踏んでいく。

 それでも疲れるものは疲れる。
 人の力では一日でどうにかなる量には限度があった。
 ちなみに私が持っていた家電の一部、電子レンジと小さな冷蔵庫は神社の社務所に置かれる事になり、活用して貰える。

 日々、へとへとになって戻って来る私をたまちゃんが心配してくれるけれどお風呂に入れば不思議と体が楽になるから、とお湯に浸かっているとつい、気持ちよくてうとうととしてしまう。
 そんな意識の狭間で考える。両親にはなんて説明をしよう、とか……神様の御使いの方と結婚をしてしまったなんて。これもきっと国芳さんがどうにかしてしまうのかもしれない。騙しているような後ろめたさは正直あるけれどこれは私が選んだ人生だった。

 それにこちらの手ぬぐいも、櫛も、たまちゃんが扇いでくれる扇の風は髪をすぐに乾かしてくれるし、肌もしっとりさらさらになって――不思議な力が懸っている。

 濡れ髪もいつの間にかさらさらになっているし。


「流石に疲れたか」

 夜も更け、私の寝所にやって来た人は置いて行った山桃のお酒を舐めていた。
 片や私は先にお布団の中で横にならせて貰っている。

 庭に降りられない代わりに、現世での身じまいを進めていた。
 私も朝早くに支度をして現世に行って日が落ちる頃に戻って来るのでここ三日、庭の目まぐるしい変化は夜、誰も居なくなっている時に眺めているけれど木材などが置かれていたりとこちらも着々と準備が進んでいるのが分かる。

「そんなに煩雑ならば俺が“どうにかしてしまっても”良いんだが」
「それって本当に神隠し、と言うやつでは」
「ああ、気に入った人の子を攫う話か」
「あれは本当……と言うか実際に私がそうなので、本当なんですよね。他の方ってどうされているんですか」
「神の元に仕え、俺たちと同じような存在になったよ」

 それは今後、私がそうなる事を言っているようだった。
 私は特に――この人の悪ふざけのせいで肉体と魂が剥がれかけた際に神様が修復をしてくださってその気が少し馴染んでしまったようで顔つきも、髪や肌も、自分で言うのもどうかと思うけれど前よりもうんと綺麗になってしまった。

 掛け布団から指先を出してかり、と胡坐をかいていた国芳さんの膝を人差し指の爪の先で引っ掻く。

「そうしたら、ずっと一緒にいられるんですね」
「そうだな。人の子の寿命よりも遥かに永く……現世にいながら神に気に入られた者はこちらで暮らせるよう新たな魂と引き換えに必ず使命と言う物を授けられる。俺が現世から連れて来た玉が神使になる使命を授けられたのと同じように」

 数多の神々の中でも我々の神は物好きなんだ、と言う国芳さん。

「この神域で番となった神使との間に生まれた子猫は必ずしも神使になる訳じゃ無い。それは自由だ。俺や神に願い出ればまずあの五兄弟のように俺が選んだ先に修行に出し、時には出雲にも派遣させる。そこでの成果を俺や黒が見て、正式な神使に成れるかどうかを見極めている」
「だとしたら玉ちゃんは」
「いや、玉は神から授けられたお陰で成り立ちは特別だったんだがその事以外は黒の我が儘でずっと俺の元で修行させた」
「すごい過保護と職権乱用……」

 だろ?と仕方なさそうに笑う国芳さん。
 まあ、あのたまちゃんの様子を見ていればそうなってしまうのも分かる。

「責任も感じているんだろう。猫のまま次なる転生を神の持つ庭で自由に寝転がりながら待つ筈だった玉の魂を、あいつがこの神域に引き留めてしまったんだ」

 それでも、黒光さんはたまちゃんに確かな愛情を寄せているのがここ数日見て取れていた。

 あと国芳さんが言うには神使同士の御夫婦はそこまでいないようで……神使になれなくても神様の持つお庭でゴロゴロしたり、人の姿になれて手先が器用な猫さんは縫い物や刺繍、奉仕作業をしたり猫の手が借りたい時に駆り出されたりと色々と神使ではなくても役割はあるそう。
 今回の披露目の場を仕立てているのも人の姿になれる猫さんたちだと国芳さんは言う。
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