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第八話、妻からの提案
(五)
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互いに訪れるふわふわとした眠気をどうにか我慢して深夜に身を清めた。
翌朝、いつものようにたまちゃんが朝の挨拶をしに来る頃にはもう、国芳さんと寝所の隣の部屋でお茶をしていた。
「おはようございます」
正座をして深々と朝の挨拶をするたまちゃんはもう、いつもの人の姿。首元には国芳さんから贈られた大切な組紐も結んであった。
「おはようたまちゃん」
「どうだ玉、お前も一杯」
夫婦の朝食、のような私と国芳さんの朝。
猫足の膳台を挟んで、宮司さんが私の為に買って渡してくれた小さな和菓子の包みを二人で開けていた所だった。
「あの、わたし、すず子さまにあやまらないと……猫のまま、飛びついてしまって……そのまま、国芳さまにおこされるまで寝ちゃって……」
申し訳ありません、と目元がまだ赤く、少し腫れているようなたまちゃん。白い耳は横に倒れてぶるぶると震えていた。
不安そうな表情――とても怖がっているのが分かる。
国芳さんは猫の神使を纏める猫王。
そして私は人間でありながら猫王の妻になってしまった。
国芳さんの立場を鑑みればたまちゃんも自分がしてしまった事が大きな不敬にあたるのだと、我に返った時に気が付いて怖くなってしまった、と細かく震える耳の様子から心情が伺える。
「たまちゃんに信頼して貰えて私は嬉しかったの」
私は人間で、魂の形が違う。
それでもひたむきに、うんと甘えてくれるたまちゃんが私は大好きなのだと伝える。
目の前で深緑の瞳を細め、少し口角を上げてお茶をしている人もそう……でも私にとっての国芳さんは特別、好きの形を越えているけれど。
大好きよ、と伝えればぼろぼろと金茶の瞳から大粒の涙をこぼすたまちゃん。
「私はどちらの姿のたまちゃんも、大好き」
だから泣かないで?と彼女の傍まで寄って、抱き締める。
「黒光さんとは仲直りできた?」
「……はい」
でも、と続く言葉を国芳さんの前で語らせることはしない。
これはとてもデリケートな話。
たとえ私と国芳さんがもう、たまちゃんが黒光さんがしようとした事にどうしてしまったかを知っていても言葉にはしない。
それは二人だけしか解決できない事で、私と国芳さんは見守りに徹する。
「玉、すず子の小袿の件だが」
口角を上げつつ、今まで黙っていた国芳さんが話を変える。
そう、届いていると言う私の花嫁衣装をまだ私は見ていない。色を選んでくれたと言うたまちゃんと黒光さんも一緒に、見たかったからだ。
「昼に時間を作る。その時に黒光も一緒に」
「っはい!!東の奥の間に、せんえつながら……たまが、すず子さまに似合うとおもった色をかさねて」
ごしごしと涙を拭うたまちゃんの表情が明るくなると同時に倒れて震えてしまっていた耳もぴん、と立つ。
「刺繍も、伝統的な猫の文様をいれたのです。すず子さま、お座布団の柄が気に入っていたみたいなので」
これは国芳さまにも相談して、と言うたまちゃん。
「神にはそのままの着物で挨拶をしたが……披露目ともなれば俺も妻には良い物を着せたい」
「あの、有難うございます……どうやって感謝を伝えたらいいのか。他にもいろんな猫さんが関わっていますよね……」
「お前は堂々としていれば良い。何より、神の御墨付だ」
たまちゃんもどうぞ、とお茶を勧めながら三人で会話を交わしているとどうやら国芳さん、あるいはたまちゃんの事を探しに来た黒光さんも私の部屋の前にやって来る。
国芳さんがたまちゃんをちらっと見たのが分かった。
それに気が付いたたまちゃんがす、と立って開け放していた引き戸の前に向かう。
少し見上げるように、黒い着物姿の黒光さんと話をしているたまちゃんの白い耳はもう、怖がっていなかった。
大丈夫みたい、と国芳さんと顔を見合わせて二人の姿を見ると黒光さんが部屋に入って来る。
どうやら国芳さんに用があったらしく「例の件ですが仕上がったようです」と言う。
お仕事の事なら私は何も言えないし、と思っていたら「丁度いい。昼に小袿を見るついでに」とどうやらそれは仕事の話ではなく私に関係しているようだった。
翌朝、いつものようにたまちゃんが朝の挨拶をしに来る頃にはもう、国芳さんと寝所の隣の部屋でお茶をしていた。
「おはようございます」
正座をして深々と朝の挨拶をするたまちゃんはもう、いつもの人の姿。首元には国芳さんから贈られた大切な組紐も結んであった。
「おはようたまちゃん」
「どうだ玉、お前も一杯」
夫婦の朝食、のような私と国芳さんの朝。
猫足の膳台を挟んで、宮司さんが私の為に買って渡してくれた小さな和菓子の包みを二人で開けていた所だった。
「あの、わたし、すず子さまにあやまらないと……猫のまま、飛びついてしまって……そのまま、国芳さまにおこされるまで寝ちゃって……」
申し訳ありません、と目元がまだ赤く、少し腫れているようなたまちゃん。白い耳は横に倒れてぶるぶると震えていた。
不安そうな表情――とても怖がっているのが分かる。
国芳さんは猫の神使を纏める猫王。
そして私は人間でありながら猫王の妻になってしまった。
国芳さんの立場を鑑みればたまちゃんも自分がしてしまった事が大きな不敬にあたるのだと、我に返った時に気が付いて怖くなってしまった、と細かく震える耳の様子から心情が伺える。
「たまちゃんに信頼して貰えて私は嬉しかったの」
私は人間で、魂の形が違う。
それでもひたむきに、うんと甘えてくれるたまちゃんが私は大好きなのだと伝える。
目の前で深緑の瞳を細め、少し口角を上げてお茶をしている人もそう……でも私にとっての国芳さんは特別、好きの形を越えているけれど。
大好きよ、と伝えればぼろぼろと金茶の瞳から大粒の涙をこぼすたまちゃん。
「私はどちらの姿のたまちゃんも、大好き」
だから泣かないで?と彼女の傍まで寄って、抱き締める。
「黒光さんとは仲直りできた?」
「……はい」
でも、と続く言葉を国芳さんの前で語らせることはしない。
これはとてもデリケートな話。
たとえ私と国芳さんがもう、たまちゃんが黒光さんがしようとした事にどうしてしまったかを知っていても言葉にはしない。
それは二人だけしか解決できない事で、私と国芳さんは見守りに徹する。
「玉、すず子の小袿の件だが」
口角を上げつつ、今まで黙っていた国芳さんが話を変える。
そう、届いていると言う私の花嫁衣装をまだ私は見ていない。色を選んでくれたと言うたまちゃんと黒光さんも一緒に、見たかったからだ。
「昼に時間を作る。その時に黒光も一緒に」
「っはい!!東の奥の間に、せんえつながら……たまが、すず子さまに似合うとおもった色をかさねて」
ごしごしと涙を拭うたまちゃんの表情が明るくなると同時に倒れて震えてしまっていた耳もぴん、と立つ。
「刺繍も、伝統的な猫の文様をいれたのです。すず子さま、お座布団の柄が気に入っていたみたいなので」
これは国芳さまにも相談して、と言うたまちゃん。
「神にはそのままの着物で挨拶をしたが……披露目ともなれば俺も妻には良い物を着せたい」
「あの、有難うございます……どうやって感謝を伝えたらいいのか。他にもいろんな猫さんが関わっていますよね……」
「お前は堂々としていれば良い。何より、神の御墨付だ」
たまちゃんもどうぞ、とお茶を勧めながら三人で会話を交わしているとどうやら国芳さん、あるいはたまちゃんの事を探しに来た黒光さんも私の部屋の前にやって来る。
国芳さんがたまちゃんをちらっと見たのが分かった。
それに気が付いたたまちゃんがす、と立って開け放していた引き戸の前に向かう。
少し見上げるように、黒い着物姿の黒光さんと話をしているたまちゃんの白い耳はもう、怖がっていなかった。
大丈夫みたい、と国芳さんと顔を見合わせて二人の姿を見ると黒光さんが部屋に入って来る。
どうやら国芳さんに用があったらしく「例の件ですが仕上がったようです」と言う。
お仕事の事なら私は何も言えないし、と思っていたら「丁度いい。昼に小袿を見るついでに」とどうやらそれは仕事の話ではなく私に関係しているようだった。
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