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第五話、にゃああ

(五)※

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「ん……っんぅ、う」

 何度も、違う場所を甘噛みされながら、割り入れられて開いてしまっていた足の付け根から垂れる物を指先で掬ったりと彼の手遊びが始まる。
 十分に人と同じように、それ以上に器用だと思う指先は“色々と分かって”やっている。
 どれくらいまでしたらいいのかも、どんな文献から得た知識なのか。

 今日、私の足の脛に掠めている柔らかな毛並の尻尾。
 機嫌よくゆらゆらと私の足を撫でている。

「なあすず子、気が散らないのか」

 国芳さんが手を止める。
 どうやら尻尾の存在を言っている、らしい。

「心地いいですよ?足元で、ご機嫌さんに揺れてて」
「全くお前は……」

 少し伏し目がちになっている国芳さんがまた手遊びを再開して、私もその甘い刺激に彼の下で身悶えて軽く果ててしまうと私の事を思っての一枚のエチケットを小さな木箱から取り出す。

「少し横になれるか」

 こうですか?となんとなく国芳さんがどうしたいのか知って体を横にする。どうしたって私の下半身はもう見られても、そう言う営みの真っ最中。

「お前はわりと潔い所があるな」
「はしたない、と」
「思わない」

 きっぱりと言い切って。
 お互いが向かい合うように横になれば上になっている足を掴まれる。
 こうして欲しい、と言う誘導に従って少し力を籠めた。

 ぴったりと密着した体、ゆっくりと入って来る熱の塊。

 頭一つ分、背の低い私は彼の首筋に顔をうずめて、耐える。
 まだ私たちは初夜しか迎えていない……あの日の激しさに私の体が耐えられなかったのを知った国芳さん自らが“お預け”状態を享受していた。それは、ちょっとかわいそうかもしれない。散々、匂いだけを吸って――本当はその先だってしたかったかもしれない。

「んん……」

 激しさは無いけれど、胸と胸が擦れ合う状態になって、国芳さんも私の背を抱き込む。
 ゆるゆると揺すられて刹那的な強い刺激ではない穏やかで、幸せな気持ちが溢れてくるような感覚。
 人の姿をしているとは言え、猫に囲まれて、その習性を垣間見ながら暮らしていたせいか私にもそれが移ってしまったようで、目の前にある鎖骨に唇を寄せて、舐めてしまった。

 びく、と反応する国芳さんは何も言わずに回した腕で私の後頭部を撫でてくれるから、続ける。
 私の舌はざらざらしていないから、国芳さんはどう感じているんだろう。
 大きく舐める事はしないで、ほんの舌先。

「ん……、ふ、」

 ゆっくりとした動作でも、繋がっている場所が切なく、舐める事に集中していた私が自分の激しい疼きに気が付いた時には国芳さんがつらそうにしていた。
 我慢してる、と思ったらなんだか愛しくなってしまって。

 一度引き抜かれて、また私が下になる。
 緩やかな体位の変換に応じれば見下ろす国芳さんと目が合う。

「猫のようだった」

 感想にふふ、と笑ってしまう。
 そうかもしれない。

「膝を……」

 こう?と言われるがままにすれば私の右足を跨いで、反対の左足の膝がぐい、と掴まれてしまった。そのまま深く、思っていた以上に深くに彼を受け入れる。

「は、う……っ」

 膝を抱かれてしまえば身動きが取れない。
 逆に動きやすくなった国芳さんが腰を進めて、奥の方まで届いてしまった。

「んッ、ん」

 抱き合って浅く戯れていた時とは違う深さに突き上げられて、吐息がだんだんと啼き声に変わっていく。
 繋がっている所からぐちぐちと音はするし、お腹は圧されて、体は動けない。

「これ、や……ッ」
「痛むか」
「ちがう……、おなかが」

 とん、とん、とん、と奥の方が小刻みに叩かれる。

 最初は緩やかな交わりも果てようとする感情が重なり合えば目が眩むような激しい一瞬を互いに求めてしまう。
 本当はいやじゃないのに突かれて出てしまう「いや」と言う吐息は国芳さんを苦笑させて、私は恥ずかしくて顔を手で覆ってしまう。

 その時。
 すり、と抱えられていない右足に柔らかい毛並の感覚。

「っ、ふ……あ」

 撫でてくれているようだけど、今の私ではもう。

「すず子……」
「ん、んんっ」

 さわさわと尻尾が私の足を撫でる。

「ひ、っ」

 抑えようとすればするほど、体が熱くて。
 たぶんこの人……私の反応を見てわざと撫でている。

「あ、あ……やッ」

 しっぽに気を取られて緩んだ隙に抱えられていた膝が強く、押し込まれた。

「待っ、て」

 すぐに始まる止まらない奥への揺さぶりにもっとゆっくりにして、と頭を左右に振ってもやめてくれないどころか国芳さんを締め付ける事をやめない自分の体も大きくびくびく震えて。
 やめて、奥、とんとんしないで、と体に力が入ってしまう。

「ッ、ぐ……く」

 私を噛まないように耐えている国芳さんが歯を食い縛っているけれど私の白む視界もちかちか光るようだった。
 耳を塞ぎたくなるような粘り気のある絶え間ない水音と肌と肌が当たる音。感じたことの無い深い深い快楽に啼きたくないのに啼いてしまう。

「や、や、それ、いや!!」
「そんなに、締めるな……ッ」
「や、あっ、あ……っにゃ、ああああッ!!」

 啼いた声は、猫のようだった。
 一度、息を強く詰まらせて唸った国芳さん。全部出し切ったらしいタイミングで大きく肩で息をしながら私の震える膝を抱えて呆然としている。

「お前……それは、駄目だ……」
「だって、おく、」

 まだ精を絞り尽くそうとしているのが自分でも分かる。
 国芳さんも甘い吐息混じりの呼吸。
 深く差し込んだままの熱すら引き抜けないで、私の膝を抱えている。

「にゃ……」
「だから、ああ……お前は、」

 今のは冗談です。
 いい歳をして、若い夫婦でもないのに。

「ん、う……」

 やっと膝を解放してくれた人はどこか項垂れているし耳もしょげて、しっぽも私の足にだらんと垂れている。

「足、痛くなかったか」

 ん、と頷けば気を取り直して身を引いた人は自分の今、引き抜いた分身を見て固まっていた。どうしたんだろう、とちょっと心配になる。

「国芳さん……?」
「何でもない」

 それは絶対に何でもなくない。
 激しかった時に何かの弾みで破れちゃってた、とか?でも今のスキンは余程の事がない限り……私と国芳さんは“魂の形が違う”のでもし失敗してしまっていてもそこまで深刻にならなくても大丈夫なのに。

「見ようとするな」

 目元が片手で覆われてしまった。
 私のちょっとした好奇心は猫をも……なんて。
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