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大人たちの夏
桃と穂高の場合 (1/3)
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私は自分の目の形があまり好きになれなかった。
ファッション誌に出て来るモデルさんや、美容雑誌でお手本とされている子たちの目はみんな大きくて丸い形をしていて可愛いな、って思っていた。整形とか、していたとしても自分が納得しているのならそれでいい。だって、みんな輝いている。
お化粧は人並みに好き。
新作のコスメのチェックだってしている。
だからつい、雑誌を買ってしまうけれど流行りの跳ね上がりのアイラインなんて引けない私のきつい眼尻。
高校からの勝手知ったる仲の女友達は「アンタのコンプレックスも誰かの憧れ、ってのはマジであるから」と言っていたけれど私の目は初対面の人にきつい印象を与えてしまう。
レッテル、のような物。
目は口ほどに物を……顔面がどうあっても、私の性格まで分かる訳がないじゃない、と言えない私の気弱さ。
心底落ち込んでしまう訳じゃ無い。
今日も鏡を覗き込んで、私は薄い色のアイライナーで描かなくても跳ね上がっている目尻にほんの少しだけ色を足す。それでも、テーブルに置いてある薄いネイビーカラーのサングラスを手に取って掛ければよそ様の目に曝け出さなく済む安心感を覚えていた。
今日は土曜日。
その女友達に誘われて昼間からビアガーデンだ。
うんざりするほどの夏の暑さの中でもびっくりするほど元気な彼女にはいつも助けられているし時々こうして「モモちゃん!!!!面白いコトしようぜ!!!!!!」と感嘆符増量で連絡をくれるのも、私の出不精な性格を知っての事。そうじゃなきゃ夏の私なんて仕事以外、殆どアパートに引きこもっている。
でも友達が誘ってくれるのは別の話。
今日も元気を分けて貰おう、と待ち合わせの駅に行く途中の大きな駅ナカで彼女の大好物である老舗のお店の海老せんべいの詰め合わせを買って先を急ぐ。
・・・
「ぐへへ、いつも悪いねぇモモちゃ~ん」
中年のおっさんか、と思うような友達……夏帆の反応に笑う。
しかし今日の昼間からビアガーデンで遊ぶ、と言う彼女のプランには同行者がいた筈なのに姿が見当たらない。私もよく知っている、夏帆のパートナーの男性。体が大きい“くまさん”なのだけれど見渡せばどこにいるかすぐ分かる人がいないなんて。あんなに仲良かったじゃない、と思っているのがバレたのか海老せんべいの紙袋を絶対に離すものか、と握り締めている夏帆が「くまさんちょっと会社寄ってから来るって言うから、先に行こう」と言う。
良かった、別れてなかった、と胸を撫で下ろす。
夏帆は昔……まだくまさんと付き合う前に大失恋をした事があった。しかも二股を掛けられていて、夏帆が捨てられた側。
その時は一週間くらい私のアパートに住みついていたけっけ。
それから暫くして、たまたま私と夏帆で飲んでいた狭い居酒屋のカウンター席。夏帆の隣に座ったのが体の大きなくまさんだった。しかも“くまさん”はあだ名じゃなくて本当に“久間田さん”のくまさんだった。
「モモ、それ新しいサングラスじゃん」
「目聡いなあ……」
「似合ってるよ」
夏帆がぐっと親指を立てて私のサングラスを褒めてくれる。
だから私は夏帆の事を信頼していた。
コンプレックスを覆い隠してしまうレンズなのに、夏帆はそんなこと全然気にしないで褒めてくれる。
「夏帆もまた今日は一段と元気で……いつも有り難くその英気を頂いています」
「拝むかい?」
くだらない事を言い合いながら予約しておいてくれたホテルの屋上のビアガーデンに二人で向かって席に通された頃、メッセージアプリを確認した夏帆が「くまさんたちももう会社出たって」と言う。
「たち……?くまさんの会社の人も来るの?」
「そー、同い年だけど学年が一個下の……って言うかモモにくまさんの同僚来るの言うの忘れてたわ」
「いいよいいよ、こう言うのはみんなで飲んだ方が楽しいし」
そうだよね!!と笑う夏帆に私も笑う。
軽食も勝手に頼んでおいてくれ、とのくまさんからの指令によって並んで座った夏帆と一緒にメニュー表を覗き込みながらあーでもない、こーでもないと注文を決めて行く。
周りには何か近くでイベントがあるのか浴衣姿の女の子たちもちらほらいて「私らも着るかい?」と夏帆が私に投げかける。
「でも私達の歳だと色とか柄とか……髪形も……」
「分かるわ。そんなの好きなモン着れば良いんだけどさ、やっぱりなんか肌に馴染まないって言うか、そもそも小物まで新たにフルでコーディネートすんの疲れる」
「ね……着て行く場所だってお祭りとか花火大会じゃなくて」
「「ビアガーデン」」
はあ、と二人で落ち込んで。それから「あーもーこれだから私達は」と笑っていれば受付の方に見える大きな人の姿。
それと同時に隣の夏帆の雰囲気がパッと変わったのが分かって、二人はもう同棲までしているのにいつまでも付き合いたてみたいに楽しそうでちょっとだけ、羨ましい。
「くまさん相変わらず大きいね」
「毎日見てても思う」
受付からこちらの方へ視線を向けたくまさんに夏帆が軽く手を振ればくまさんも気づいて、その後ろから見知らぬ男性――くまさんの同僚の方が見えた。ポロシャツにスラックスの軽い服装だったけど結構しっかりした体つきの人。髪が短いな、とか見た目だけで私も人を判断してしまいそうになって、やめる。
「桃ちゃん久しぶり」
「こちらこそ、お久しぶりです」
見上げてしまうほどの身長のくまさんが「会社の同僚の穂高だ」と隣にいる男性を紹介してくれる。くまさんが規格外だからちょっと錯覚してしまうけど隣の男性、穂高さんも結構背が高い。
「こっちが夏帆で、隣が夏帆の高校時代からの友達の桃ちゃん」
「よろしくお願いします」
場を取り持つようにくまさんが手際よく紹介の挨拶をしてくれていると先に私達が見繕って頼んでおいた料理が運ばれてきたので挨拶もそこそこに早速、飲み放題プランのビールを注文する。
乾杯、と弾ける泡。
ジョッキごとよく冷やされたビールの爽やかな苦みにぎゅーっとなる。
「モモさあ、本当に美味しそうに飲むよね」
「そうかな……なんか言われると恥ずかしいかも」
「美味しいお酒が飲みたい時にモモを呼ぶとそれだけで美味さが倍増するのよ」
私の正面に座っている穂高さんも一口飲んだ後に「そうなんだ」と笑ってくれている。もう、夏帆は人を褒めるのが上手いと言うか、褒めているんだかよく分からない事まで本当に、その存在はありがたい。
大人四人で昼間からビアガーデン。
これぞ大人たちの夏、と言わんばかりのビール飲み放題。
流石に体の事を気遣う年齢でもあるので頼んでおいた軽食もそれぞれに遠慮なく食べながら、穂高さんも楽しそうにしているのを見て安心する。物静かな人だけどちゃんと遠慮しないで食べてくれている。
空きっ腹にお酒は良くない。楽しいお酒も楽しくなくなってしまうし。
時間にして二時間くらいだったか。
昼間のフリータイムプランを選んでくれていたから時間を気にすることなく楽しく飲んで食べて、おしゃべりをしていた。
「モモ、そろそろ引き揚げよっか。ほっぺ真っ赤」
「え、本当?」
「子供じゃないんだから」
「楽しかったからつい、気が付かなかった」
のぼせるよ、と夏帆が言ってくれる。
私の体質なのか……それとも最近、暑過ぎるのか。去年こうやって夏帆と外で飲んでいて、見事に体調を崩した事があった。だから私達はお酒を飲む時はちゃんと食べるし、水やソフトドリンクを間に挟む。無理をしない。
と言うかもう、無茶が出来ない。
お互いの体調変化に気を使い合うのが私達の常だった。
「くまさんと穂高さんはどうする?モモを途中まで送ったら夕飯の買い物して帰るけど。ちなみにもう作る気力はぜんっぜん残ってないから夕飯はお惣菜になります」
夏帆はしっかりしてるなあ、と思っていれば「俺もくまさんと同じ方向だから……」と穂高さんが言う。
「じゃあもうみんなで帰るか」
くまさんの一声に決議される。
このくまさんの性格がまだ大失恋の尾を引いていた夏帆に踏ん切りを付けさせ、その胸まで射止めてしまった。夏帆からも「こりゃあ私に失恋ブーストが掛かってるわ。ねえ、モモから見た久間田さんって大丈夫そう?」と聞かれた事があった。
「ああ、そう言えば穂高って桃ちゃんと同じ最寄り駅じゃなかったか」
「そうなんですか?」
穂高さんとサングラス越しに目が合って、互いの最寄り駅が同じだと知り「私は東口の方で」と言えば穂高さんは西口なのだと言う。
四人で立ったまま電車に揺られ、先に降りる夏帆とくまさんを見送る。
夏帆のバッグをさり気なく持ってあげているくまさんの大きな背中とその隣の夏帆はやはり海老せんべいの紙袋だけは自分で持っている。
結構な人数が降りた所で立っていた私と穂高さんの目の前の席も一席空くと「桃さん」と声を掛けてくれた。
「ありがとうございます」
過度な遠慮をしてもしょうがない場面ではお礼を言って善意を頂く。
「今日、どうでした……私達うるさくしちゃっていたら」
いい歳をした女二人のトークにもついて来てくれていた穂高さん。社交辞令と分かっていても流石に申し訳ないな、と軽く謝る。
「いや、楽しかったですよ。桃さん達はいつもあんな感じ?」
「そうですね。高校から一緒だから、夏帆がくまさんと同棲するって聞いた時はちょっと嫉妬しちゃったくらいで……穂高さんはくまさんと同い年、となると私達より三つ上……?」
「そう、くまさんとは学年が一つ下になるんだけどくまさんはそんな事気にしないタイプだから」
「ですよね!!くまさん、快活な人だから」
「あれでも夏帆さんと喧嘩した日には」
と、そんな所で電車はもう私達の使っている最寄り駅に到着してしまい穂高さんの“くまさん情報”が気になってしまう私はちら、と腕時計を確認してしまった。
この駅にはチェーンのコーヒーショップが入っている。今の時間なら席も空いて……と穂高さんを誘ってしまおうかと思っていたら「もし時間がまだあったら」と穂高さんの方から誘ってくれた。
私も「その喧嘩した日の話、気になります」と夏帆とくまさんには悪いけどどうしても話の続きが気になってしまい、二人でお店に入っていく。
(年齢設定、桃と夏帆が30、穂高とくまさんが33です)
ファッション誌に出て来るモデルさんや、美容雑誌でお手本とされている子たちの目はみんな大きくて丸い形をしていて可愛いな、って思っていた。整形とか、していたとしても自分が納得しているのならそれでいい。だって、みんな輝いている。
お化粧は人並みに好き。
新作のコスメのチェックだってしている。
だからつい、雑誌を買ってしまうけれど流行りの跳ね上がりのアイラインなんて引けない私のきつい眼尻。
高校からの勝手知ったる仲の女友達は「アンタのコンプレックスも誰かの憧れ、ってのはマジであるから」と言っていたけれど私の目は初対面の人にきつい印象を与えてしまう。
レッテル、のような物。
目は口ほどに物を……顔面がどうあっても、私の性格まで分かる訳がないじゃない、と言えない私の気弱さ。
心底落ち込んでしまう訳じゃ無い。
今日も鏡を覗き込んで、私は薄い色のアイライナーで描かなくても跳ね上がっている目尻にほんの少しだけ色を足す。それでも、テーブルに置いてある薄いネイビーカラーのサングラスを手に取って掛ければよそ様の目に曝け出さなく済む安心感を覚えていた。
今日は土曜日。
その女友達に誘われて昼間からビアガーデンだ。
うんざりするほどの夏の暑さの中でもびっくりするほど元気な彼女にはいつも助けられているし時々こうして「モモちゃん!!!!面白いコトしようぜ!!!!!!」と感嘆符増量で連絡をくれるのも、私の出不精な性格を知っての事。そうじゃなきゃ夏の私なんて仕事以外、殆どアパートに引きこもっている。
でも友達が誘ってくれるのは別の話。
今日も元気を分けて貰おう、と待ち合わせの駅に行く途中の大きな駅ナカで彼女の大好物である老舗のお店の海老せんべいの詰め合わせを買って先を急ぐ。
・・・
「ぐへへ、いつも悪いねぇモモちゃ~ん」
中年のおっさんか、と思うような友達……夏帆の反応に笑う。
しかし今日の昼間からビアガーデンで遊ぶ、と言う彼女のプランには同行者がいた筈なのに姿が見当たらない。私もよく知っている、夏帆のパートナーの男性。体が大きい“くまさん”なのだけれど見渡せばどこにいるかすぐ分かる人がいないなんて。あんなに仲良かったじゃない、と思っているのがバレたのか海老せんべいの紙袋を絶対に離すものか、と握り締めている夏帆が「くまさんちょっと会社寄ってから来るって言うから、先に行こう」と言う。
良かった、別れてなかった、と胸を撫で下ろす。
夏帆は昔……まだくまさんと付き合う前に大失恋をした事があった。しかも二股を掛けられていて、夏帆が捨てられた側。
その時は一週間くらい私のアパートに住みついていたけっけ。
それから暫くして、たまたま私と夏帆で飲んでいた狭い居酒屋のカウンター席。夏帆の隣に座ったのが体の大きなくまさんだった。しかも“くまさん”はあだ名じゃなくて本当に“久間田さん”のくまさんだった。
「モモ、それ新しいサングラスじゃん」
「目聡いなあ……」
「似合ってるよ」
夏帆がぐっと親指を立てて私のサングラスを褒めてくれる。
だから私は夏帆の事を信頼していた。
コンプレックスを覆い隠してしまうレンズなのに、夏帆はそんなこと全然気にしないで褒めてくれる。
「夏帆もまた今日は一段と元気で……いつも有り難くその英気を頂いています」
「拝むかい?」
くだらない事を言い合いながら予約しておいてくれたホテルの屋上のビアガーデンに二人で向かって席に通された頃、メッセージアプリを確認した夏帆が「くまさんたちももう会社出たって」と言う。
「たち……?くまさんの会社の人も来るの?」
「そー、同い年だけど学年が一個下の……って言うかモモにくまさんの同僚来るの言うの忘れてたわ」
「いいよいいよ、こう言うのはみんなで飲んだ方が楽しいし」
そうだよね!!と笑う夏帆に私も笑う。
軽食も勝手に頼んでおいてくれ、とのくまさんからの指令によって並んで座った夏帆と一緒にメニュー表を覗き込みながらあーでもない、こーでもないと注文を決めて行く。
周りには何か近くでイベントがあるのか浴衣姿の女の子たちもちらほらいて「私らも着るかい?」と夏帆が私に投げかける。
「でも私達の歳だと色とか柄とか……髪形も……」
「分かるわ。そんなの好きなモン着れば良いんだけどさ、やっぱりなんか肌に馴染まないって言うか、そもそも小物まで新たにフルでコーディネートすんの疲れる」
「ね……着て行く場所だってお祭りとか花火大会じゃなくて」
「「ビアガーデン」」
はあ、と二人で落ち込んで。それから「あーもーこれだから私達は」と笑っていれば受付の方に見える大きな人の姿。
それと同時に隣の夏帆の雰囲気がパッと変わったのが分かって、二人はもう同棲までしているのにいつまでも付き合いたてみたいに楽しそうでちょっとだけ、羨ましい。
「くまさん相変わらず大きいね」
「毎日見てても思う」
受付からこちらの方へ視線を向けたくまさんに夏帆が軽く手を振ればくまさんも気づいて、その後ろから見知らぬ男性――くまさんの同僚の方が見えた。ポロシャツにスラックスの軽い服装だったけど結構しっかりした体つきの人。髪が短いな、とか見た目だけで私も人を判断してしまいそうになって、やめる。
「桃ちゃん久しぶり」
「こちらこそ、お久しぶりです」
見上げてしまうほどの身長のくまさんが「会社の同僚の穂高だ」と隣にいる男性を紹介してくれる。くまさんが規格外だからちょっと錯覚してしまうけど隣の男性、穂高さんも結構背が高い。
「こっちが夏帆で、隣が夏帆の高校時代からの友達の桃ちゃん」
「よろしくお願いします」
場を取り持つようにくまさんが手際よく紹介の挨拶をしてくれていると先に私達が見繕って頼んでおいた料理が運ばれてきたので挨拶もそこそこに早速、飲み放題プランのビールを注文する。
乾杯、と弾ける泡。
ジョッキごとよく冷やされたビールの爽やかな苦みにぎゅーっとなる。
「モモさあ、本当に美味しそうに飲むよね」
「そうかな……なんか言われると恥ずかしいかも」
「美味しいお酒が飲みたい時にモモを呼ぶとそれだけで美味さが倍増するのよ」
私の正面に座っている穂高さんも一口飲んだ後に「そうなんだ」と笑ってくれている。もう、夏帆は人を褒めるのが上手いと言うか、褒めているんだかよく分からない事まで本当に、その存在はありがたい。
大人四人で昼間からビアガーデン。
これぞ大人たちの夏、と言わんばかりのビール飲み放題。
流石に体の事を気遣う年齢でもあるので頼んでおいた軽食もそれぞれに遠慮なく食べながら、穂高さんも楽しそうにしているのを見て安心する。物静かな人だけどちゃんと遠慮しないで食べてくれている。
空きっ腹にお酒は良くない。楽しいお酒も楽しくなくなってしまうし。
時間にして二時間くらいだったか。
昼間のフリータイムプランを選んでくれていたから時間を気にすることなく楽しく飲んで食べて、おしゃべりをしていた。
「モモ、そろそろ引き揚げよっか。ほっぺ真っ赤」
「え、本当?」
「子供じゃないんだから」
「楽しかったからつい、気が付かなかった」
のぼせるよ、と夏帆が言ってくれる。
私の体質なのか……それとも最近、暑過ぎるのか。去年こうやって夏帆と外で飲んでいて、見事に体調を崩した事があった。だから私達はお酒を飲む時はちゃんと食べるし、水やソフトドリンクを間に挟む。無理をしない。
と言うかもう、無茶が出来ない。
お互いの体調変化に気を使い合うのが私達の常だった。
「くまさんと穂高さんはどうする?モモを途中まで送ったら夕飯の買い物して帰るけど。ちなみにもう作る気力はぜんっぜん残ってないから夕飯はお惣菜になります」
夏帆はしっかりしてるなあ、と思っていれば「俺もくまさんと同じ方向だから……」と穂高さんが言う。
「じゃあもうみんなで帰るか」
くまさんの一声に決議される。
このくまさんの性格がまだ大失恋の尾を引いていた夏帆に踏ん切りを付けさせ、その胸まで射止めてしまった。夏帆からも「こりゃあ私に失恋ブーストが掛かってるわ。ねえ、モモから見た久間田さんって大丈夫そう?」と聞かれた事があった。
「ああ、そう言えば穂高って桃ちゃんと同じ最寄り駅じゃなかったか」
「そうなんですか?」
穂高さんとサングラス越しに目が合って、互いの最寄り駅が同じだと知り「私は東口の方で」と言えば穂高さんは西口なのだと言う。
四人で立ったまま電車に揺られ、先に降りる夏帆とくまさんを見送る。
夏帆のバッグをさり気なく持ってあげているくまさんの大きな背中とその隣の夏帆はやはり海老せんべいの紙袋だけは自分で持っている。
結構な人数が降りた所で立っていた私と穂高さんの目の前の席も一席空くと「桃さん」と声を掛けてくれた。
「ありがとうございます」
過度な遠慮をしてもしょうがない場面ではお礼を言って善意を頂く。
「今日、どうでした……私達うるさくしちゃっていたら」
いい歳をした女二人のトークにもついて来てくれていた穂高さん。社交辞令と分かっていても流石に申し訳ないな、と軽く謝る。
「いや、楽しかったですよ。桃さん達はいつもあんな感じ?」
「そうですね。高校から一緒だから、夏帆がくまさんと同棲するって聞いた時はちょっと嫉妬しちゃったくらいで……穂高さんはくまさんと同い年、となると私達より三つ上……?」
「そう、くまさんとは学年が一つ下になるんだけどくまさんはそんな事気にしないタイプだから」
「ですよね!!くまさん、快活な人だから」
「あれでも夏帆さんと喧嘩した日には」
と、そんな所で電車はもう私達の使っている最寄り駅に到着してしまい穂高さんの“くまさん情報”が気になってしまう私はちら、と腕時計を確認してしまった。
この駅にはチェーンのコーヒーショップが入っている。今の時間なら席も空いて……と穂高さんを誘ってしまおうかと思っていたら「もし時間がまだあったら」と穂高さんの方から誘ってくれた。
私も「その喧嘩した日の話、気になります」と夏帆とくまさんには悪いけどどうしても話の続きが気になってしまい、二人でお店に入っていく。
(年齢設定、桃と夏帆が30、穂高とくまさんが33です)
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