【R18】『千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~』

緑野かえる

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単話 『千代子とチョコ(バレンタインデー話)』

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 クリスマス、そしてお正月を過ぎた二月の初旬、出掛けたついでにデパートに寄った千代子はまたしても吸い込まれるように地下の食品フロアに……ではなく、広い催事場の階へと向かう。
 二月は大きなイベント、甘い物が好きな千代子にとっての大切な日――バレンタインデーが近づいていた。司も千代子の作り置きしてあるホットケーキや焼き菓子を摘まんでいるので甘い物が苦手と言う訳ではないのは知っている。

 そして司からバレンタインデーには「ちよちゃんのチョコレートケーキを」とリクエストを受けていた。千代子も何か作るつもりだったがこうして先に言って貰えたのでホームメイドのレシピは既に探してあった。

 しかし千代子にとっては珍しくそれはそれ、これはこれ、だった。

 彼女の強い戦意。
 自分の小倉千代子おぐら ちよこ、と言う名前……ちよこ、ちょこ……チョコレート。名は体を表すと言うのははたして表現として合っているのか千代子も分からなかったがチョコレートも千代子の好物であるのには間違いない。
 大人になって自由に好きな物を買う事が出来るようになった今はバレンタインデーには必ずデパートの催事場に来て二つ三つ、とその時のフィーリングで少々値の張るチョコレートを買っていた。
 それに海外在住のショコラティエ本人まで来日してのバレンタイン商戦。主催も出店側も客も催事場内すべて、気合が入っている。

 司も「日本が良い稼ぎシノギの場なんだろうね」と言っていたが確かに年々、誰かへのプレゼントとして以外にも自分が楽しむ為の世界のチョコレート博覧会状態になっている催事場。特にこの都心の百貨店は規模が違っていた。

 千代子がわざわざ平日の昼間、お昼ご飯の時間帯にやって来たのも人混みを避けるためだったがそれでも買い物客は多い。

 きらきらの宝石のようなチョコレートからまるでお化粧品のようなパッケージの物、オーソドックスながら厳選されたカカオ豆や素材が使われた物などどれも千代子の目を惹いてしまう。

 本当の気持ちを言えば司と一緒に来たかったがクリスマスマーケットの前科がある。司にまんまと甘やかされて彼の財布の紐がそれはもう……その時に購入したのはクッションカバーやブランケットなどの二人で暮らす為の物で当時の司は終始にこにこしてくれていたがこのきらきら達はあくまでも千代子の個人的な嗜好品。
 一箱数千円もするチョコレートでも自分が美味しそう、と言ってしまえば司はスマートに買い与えてしまう事は千代子も想像できてしまう。

 長い間離れていたせいで……それもまた彼なりの愛情表現の一つだと分かっている。すぐ、甘やかしてこようとするから油断ならない。
 千代子は強い意志を持って司の甘やかしに流され過ぎないようにしていたがいざ、本人を前にしてしまうと呆気なくとろけさせられてしまっていた。

 ・・・

 その日は司も会食があると言う事で千代子は食品フロアでお惣菜を少し買ってから帰宅をして、夜は一人でゆっくりしていた。
 司の晩酌に付き合う時用の度数のごく軽い缶チューハイも頂き、ちょうどよいほろ酔いの千代子は付けていたテレビで映画が放送されていたのでそれを見ながらブランケットを抱え、何となく司の帰りを待っていたがいつの間にか眠ってしまう。眠っていたのは僅かな時間の筈だったが人の気配にハッとして目を覚ませば毛布を広げて掛けてくれようとしていた司がいた。

「あ、わ、お帰りなさい」

 司と暮らすようになって、自然な眠気についうとうととする事が多くなっていた千代子。安心して過ごせている証拠でもあったのだがちょっと寝ぼけ気味な千代子に司は笑っている。

「ただいま」

 冬用の厚手の毛布が千代子の膝に掛けられる。
 まだコートとジャケットを脱いだだけの様子の司は「遅くなってごめんね」と帰宅を待ってくれていた千代子に言う。

「映画見始めたらそのまま寝ちゃって……」

 エンディングを見てない、と恥ずかしそうに笑って毛布を抱く千代子は可愛いが体を冷やすといけないからもう先に寝てて、と促す司に「いいんですか?」と見上げる丸い瞳は司にとっての弱点だがもうそれなりに遅い時間なので就寝を促す。

「そうだ。ちよちゃん、明日の私のお休みなんだけど」
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