R18『千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~』

緑野かえる

文字の大きさ
上 下
16 / 38
単話『ハロウィーンのその前に』

(1/5)

しおりを挟む
 純粋と言うか少し心配性な千代子の目に映っているのは“セックスレス”の文字。仕事と掃除も終わり、お昼ご飯が軽かったので午後のお茶のひと時に、と冷凍しておいたホットケーキを出していつものようにリビングのソファーで楽しんでいた昼下がり。
 テレビをつけるのも、と買ってきてから読んでいなかったファッション誌を捲っていれば飛び込んでくるタイトルに目を丸くさせ……広い部屋には自分一人なのだとなぜか辺りを確認してしまう。

 ごくり、とホットケーキを飲み込む。
 最近の司と千代子は暫く……していなかった。
 もとから頻度は少な目なのかよく分からないが司も忙しく、一緒に暮らしているだけでわりと満足してしまっている自身に千代子は今更ながらに気づいてしまう。

 司は、したいのだろうか。
 自分は……と考えてみると疑問が生じてしまう。
 こうして暮らしているだけで充実してしまっているせいでその先の男女の仲をどうの、と言うのをあまり意識した事が無かった。
 いつも司は優しいし、体の事も気を使ってくれている。

 それで、今月ってしたっけ。

 もう月末が近い。
 あれ?と考えてしまう。
 まだ自分たちは同棲をはじめて一年も経っていない。春に出会って秋を過ぎて、今は肌寒くなってきた秋の終わりごろ。ハロウィーンフェアに華やいでいるデパートやスーパーの棚。千代子も何となく当日やその近辺では南瓜と蕪で美味しい物を作ろうかな、と考えていた。

 雑誌のページを捲れば今度は“マンネリ解消”の文字。
 図星を突かれているようで千代子の唇がぎゅ、となるが以前疲れていた司にマッサージジェルでスキンシップをはかった事はある。その時はその流れで、司に良いようにされてしまったけれどあれはあれで楽しかった――とは言えそれ以上に奇をてらったことなんてできない。

 司もきっと、あまりそう言うのは望んでいないと思う……と千代子は雑誌を閉じてしまう。あのマッサージジェルはまだ残っていて時々、千代子が足のマッサージに使っていた。

 お皿に残っていたホットケーキをフォークに刺そうとして、それで手が止まってしまう。自分は、子供じみているだろうか。
 可愛い物が好き、ホットケーキとか甘い物が好き、司の事は大好き――でも、どうしても自分に自信が持てなくなる時がある。
 完璧な男性としてある司の隣に自分は肩を寄せて立っていてもいいのだろうか。

 もっと、彼にはふさわしいパートナーが。

 それがよくない考えだと分かっていても涙が滲んでしまう。
 残りのホットケーキが食べられない。

 しまっておこう、とキッチンに行ってラップを掛ける。
 冷蔵庫を開けたついでだからもう夕飯の支度をしてしまおうと千代子は何事も無かったかのように、いつものように、司と自分の為に調理を始め――その間に司からメッセージが送られてきた。

 食事会が入ってしまったから遅くなる、先に寝ていて構わないから。

 見慣れてしまったその文。
 この寂しさは我が儘なのだと、自分に言い聞かせてしまう。

 夜が遅いなら、と千代子は出来たおかずから保存容器に詰めてカウンターに置いて冷まし始める。自分の分はプレートに取ったのであとは帰って来た司が好きなように、見繕ってくれたら。

 こう言った急な事に対応する為に炊き過ぎないようにしているごはんもお茶碗に取り分けて自分の分だけ分けておく。
 残りは一食分ずつラップに取り分けて冷凍室へ。

「ふう……」

 考えすぎ、と言い聞かせる。
 本当に自分は心配性で……すぐに落ち込んでしまう。


 そうして風呂も食事も済ませて一人で眠る夜。
 司は多分二次会か何かが長引いているのかまだ帰って来ない。

 いくらお酒に強いからって無理はしないで欲しい、と与えてくれた自分の部屋のベッドに横になって考えるのは司の事ばかり。

 ふと、体がじんわり……ごく淡く疼く。
 意識してしまうと余計に強く、自慰をしたくなるような気分じゃなかった筈なのに、と千代子はごろんと横になっておやつの時間に読んでいた雑誌のページを思い出す。
 自分のこの体に、魅力はあるのだろうか。

「ん……っく」

 胸は?ウエストは?お尻は?
 そして大切な場所は……司は、本当に相手が自分で良いのだろうか。

 夕方に滲んだ涙がまた一つ……こぼれてしまえばあとは自然と流れて枕を濡らしてしまう。くすん、と小さく鼻を啜る千代子。疲れているのか良くない事ばかりを考えてしまう自分の体を抱き締めるように、掛布団を強く抱いて瞼を閉じる。眠ってしまえば朝が来るから、そうすれば目覚めて来た司に「おはようございます」と「いってらっしゃい」が出来る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...