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単話『千代子と司の週末』
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ひ、と肩を竦めた千代子。
「ごめん、冷たかった……?」
そう言えばさっき千代子がしてくれた時はもう、マッサージジェルはひと肌程度に温かだったな、と司は自分のジェルに濡れている手を見て思う。
ちょっとしたスキンケア用品くらいしか扱った事の無い司。どうやら千代子は手のひらで温めてから触れてくれていたらしい。
「不本意、って顔してる」
「それは……そうです」
恥ずかしい、と枕元に畳んで置いておいたバスタオルを胸に抱いていたが殆ど押し上げられてしまっている。仰向けに押し倒されたものの転がされて背中をマッサージしてくれるかと思いきや普通に寝間着とワイヤーのないナイトブラを剥かれて胸の膨らみに触れられた。
しかも司は体重は掛けていなかったがしっかりと太もものあたりに跨いで座っているので逃げられない。
「柔らかいね」
本音の言葉が千代子に落ちる。
胸元だけではなくウエストや肩まわりも司の大きな手で丹念に撫でられ、恥ずかしさに寄せていた眉が観念したのか次第にほどけ、どこかうっとりとしたような艶のある表情に変わっていく。
その表情の移り変わりが司は好きだった。
普段の穏やかな生活から得られる何ものにも代えがたい充足感とはまた別の、肌が触れ合う時にしかないこの愛しさと言うものが司の心に沁みていく。
それは千代子も同じだった。
墨色の司の背に触れられるのはきっと自分だけなのだと言う彼女にしては珍しい淡い独占欲が心に滲んでいた。でもきっとこれは今日のワインが美味しくて少し酔いが回ってしまったから、と心に言い訳をする。
いい年齢をした大人同士。
体力任せにするのではなく、互いにゆっくりと気の向くままに抱き締めあったり首筋に顔をうずめたりと深く繋がり合った状態でも忙しい日々の束の間の時間を惜しむように――心の底からふ、と漏れ出るような甘い吐息を交わす。
言葉に出来ない愛おしさを抱き締める事によって相手に伝える。
「ふふ……っ」
司の背に腕を回していた千代子が「すべすべですね」と笑う。
それを言うなら千代子の方が何倍もすべすべで柔らかいのに、と司は思うが控えめな彼女からの積極的な感想は彼にとっては大歓迎だった。
浅い、緩慢な揺れだとしても確実にきゅ、と締め付けられるのは千代子も感じてくれている証拠。
特別、変わったことはしないけれど溢れ出てくる愛情はいつも同じ。
司が少しだけ深く腰を進めてみれば千代子の息を飲む胸が上がって、切なそうに指先に力が入る。
それでも出そうになってしまう声を我慢して、我慢して……ついにはこぼれてしまう僅かな喘ぎ。マッサージジェルのお陰もあってしっとりと熱く、上気していく体を互いに抱いて揺れ続ける。
「ん、ぅ」
静かな交わりとは言え、あまり歯を食い縛るのはよくない、と司はそっと千代子の頬や額に唇を寄せて最後には重ね合わせて体の力を抜いて、と教える。
男の性である愛欲の熱い塊で体を深く貫かれているのだから仕方ないけれど――そう言えば今夜は付けっぱなしの部屋の照明の明るさのお陰で千代子の美しさと言うか、女性の神秘性がまるで光っているように司には見えた。
楽しかった休日の締めくくり。
もう十分に癒されている。
「んん……、っ」
目下、頬を赤らめて静かに喘ぐその姿に本当は背に触れられた時から欲を緩く腫らしていたなんて言えやしない。ましてや入れ墨の部分は司にとって、千代子限定での性感帯だ。そんな場所にあんなに丁寧に、ずっと触れられれば我慢など出来なかった。
今日一日どころか数日前から自分の為に悩んだり、今日だって美味しい料理を作ってくれた上にマッサージまでしてくれた千代子を自分も初めは労わろうと思っていた筈が、遊び心に見せかけてもうこんなに濡れ合う程に愛してしまっていた。
しっとりといい匂いのする肌に薄い汗が混じる。
抱き締めている、と言うよりはしがみ付いてる千代子。
そうでもしなければ今にも軽く果ててしまいそうになってきていた。
「ちよちゃん、のぼせてない?大丈夫?」
少し体を起こした司が何をしようとしているのか。
分かっていても自分の意識を白む程、激しい呼吸に舌をひりつかせる程に乱すその熱の籠った行為を予見してしまって――まるで自分はそれを期待しているのだと思わせてしまいそうになるくらいにぎゅ、と締め付けてしまう。
可愛い、とつい言葉が浮かぶ司。
自分が生まれ持つ衝動の片鱗が出てしまいそうになる。
体の大きさも作りも違うのだから、優しく扱わなければ壊してしまうのに。
分かっているのに、ぐらつく理性。
しかし今日は照明が付いている寝室。
体を起こした事で背中から離れてしまった千代子の手は胸元で所在無げにしているが、その左手薬指に填まっている親愛の丸い形を見た司はそっとその手に自らの右手を絡みあわせて「握っていて」とベッドに縫いとめるように手を繋ぐ。
「ん、く」
ゆるゆると揺さぶり出せば切なげな声。
「……っあ、う」
お腹の深い所に届いたのか、びくんと肩が跳ねて絡ませた指先に力が入る。
「ごめん、冷たかった……?」
そう言えばさっき千代子がしてくれた時はもう、マッサージジェルはひと肌程度に温かだったな、と司は自分のジェルに濡れている手を見て思う。
ちょっとしたスキンケア用品くらいしか扱った事の無い司。どうやら千代子は手のひらで温めてから触れてくれていたらしい。
「不本意、って顔してる」
「それは……そうです」
恥ずかしい、と枕元に畳んで置いておいたバスタオルを胸に抱いていたが殆ど押し上げられてしまっている。仰向けに押し倒されたものの転がされて背中をマッサージしてくれるかと思いきや普通に寝間着とワイヤーのないナイトブラを剥かれて胸の膨らみに触れられた。
しかも司は体重は掛けていなかったがしっかりと太もものあたりに跨いで座っているので逃げられない。
「柔らかいね」
本音の言葉が千代子に落ちる。
胸元だけではなくウエストや肩まわりも司の大きな手で丹念に撫でられ、恥ずかしさに寄せていた眉が観念したのか次第にほどけ、どこかうっとりとしたような艶のある表情に変わっていく。
その表情の移り変わりが司は好きだった。
普段の穏やかな生活から得られる何ものにも代えがたい充足感とはまた別の、肌が触れ合う時にしかないこの愛しさと言うものが司の心に沁みていく。
それは千代子も同じだった。
墨色の司の背に触れられるのはきっと自分だけなのだと言う彼女にしては珍しい淡い独占欲が心に滲んでいた。でもきっとこれは今日のワインが美味しくて少し酔いが回ってしまったから、と心に言い訳をする。
いい年齢をした大人同士。
体力任せにするのではなく、互いにゆっくりと気の向くままに抱き締めあったり首筋に顔をうずめたりと深く繋がり合った状態でも忙しい日々の束の間の時間を惜しむように――心の底からふ、と漏れ出るような甘い吐息を交わす。
言葉に出来ない愛おしさを抱き締める事によって相手に伝える。
「ふふ……っ」
司の背に腕を回していた千代子が「すべすべですね」と笑う。
それを言うなら千代子の方が何倍もすべすべで柔らかいのに、と司は思うが控えめな彼女からの積極的な感想は彼にとっては大歓迎だった。
浅い、緩慢な揺れだとしても確実にきゅ、と締め付けられるのは千代子も感じてくれている証拠。
特別、変わったことはしないけれど溢れ出てくる愛情はいつも同じ。
司が少しだけ深く腰を進めてみれば千代子の息を飲む胸が上がって、切なそうに指先に力が入る。
それでも出そうになってしまう声を我慢して、我慢して……ついにはこぼれてしまう僅かな喘ぎ。マッサージジェルのお陰もあってしっとりと熱く、上気していく体を互いに抱いて揺れ続ける。
「ん、ぅ」
静かな交わりとは言え、あまり歯を食い縛るのはよくない、と司はそっと千代子の頬や額に唇を寄せて最後には重ね合わせて体の力を抜いて、と教える。
男の性である愛欲の熱い塊で体を深く貫かれているのだから仕方ないけれど――そう言えば今夜は付けっぱなしの部屋の照明の明るさのお陰で千代子の美しさと言うか、女性の神秘性がまるで光っているように司には見えた。
楽しかった休日の締めくくり。
もう十分に癒されている。
「んん……、っ」
目下、頬を赤らめて静かに喘ぐその姿に本当は背に触れられた時から欲を緩く腫らしていたなんて言えやしない。ましてや入れ墨の部分は司にとって、千代子限定での性感帯だ。そんな場所にあんなに丁寧に、ずっと触れられれば我慢など出来なかった。
今日一日どころか数日前から自分の為に悩んだり、今日だって美味しい料理を作ってくれた上にマッサージまでしてくれた千代子を自分も初めは労わろうと思っていた筈が、遊び心に見せかけてもうこんなに濡れ合う程に愛してしまっていた。
しっとりといい匂いのする肌に薄い汗が混じる。
抱き締めている、と言うよりはしがみ付いてる千代子。
そうでもしなければ今にも軽く果ててしまいそうになってきていた。
「ちよちゃん、のぼせてない?大丈夫?」
少し体を起こした司が何をしようとしているのか。
分かっていても自分の意識を白む程、激しい呼吸に舌をひりつかせる程に乱すその熱の籠った行為を予見してしまって――まるで自分はそれを期待しているのだと思わせてしまいそうになるくらいにぎゅ、と締め付けてしまう。
可愛い、とつい言葉が浮かぶ司。
自分が生まれ持つ衝動の片鱗が出てしまいそうになる。
体の大きさも作りも違うのだから、優しく扱わなければ壊してしまうのに。
分かっているのに、ぐらつく理性。
しかし今日は照明が付いている寝室。
体を起こした事で背中から離れてしまった千代子の手は胸元で所在無げにしているが、その左手薬指に填まっている親愛の丸い形を見た司はそっとその手に自らの右手を絡みあわせて「握っていて」とベッドに縫いとめるように手を繋ぐ。
「ん、く」
ゆるゆると揺さぶり出せば切なげな声。
「……っあ、う」
お腹の深い所に届いたのか、びくんと肩が跳ねて絡ませた指先に力が入る。
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