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13 俺が姫を暴いちまったんだ
しおりを挟む「お風呂も沸かそっか」
「それなら俺が洗ってきます」
「じゃあお願いする」
日が暮れてゆく。
一年が、終わってゆく。
流石に正月休み直前、生鮮食品がすっからかんのスーパーで見繕うもねえが千鶴さんと並んで話をしながら……菓子や酒も買って、近所だからと車も出さずに歩いて行って帰って。
メシや風呂の支度を始める千鶴さんと俺はまるで同棲でもしているかのようだった。
俺が湯船を洗い終わる頃には小さな台所からこぎみ良い包丁の音。もう湯を張るかどうか聞きに行けば「虎治、先に入っていいよ」と言われちまう。家主より先に一番風呂を頂戴するにゃ、とも思ったが女性には女性の支度があるのは俺とて承知している。それは夜の、支度だ。
俺と、過ごしてくれる為の支度を……。
「うちお皿少ないし雰囲気出るかもーってお正月の紙皿買っちゃったけど、便利かも」
「そうですね」
「私たち二人だけならね。家だとお客さんも来るからお客さん用のお皿じゃないとだけど」
「風呂が沸くまで、盛り付けしますよ」
「あ、じゃあお肉をね、こっちの派手な紙皿に」
千鶴さんと並んで立つ台所。俺のガタイのせいで若干、手狭だったがそれもまた。
暫くすると風呂が沸く。外はもうすっかり暗くなっちまっていて、千鶴さんとの夜が始まる。
・・・
食って、飲んで、気が付きゃ日付が変わる寸前。ほろ酔いの良い加減になっているのか、千鶴さんの頬は赤くなっていた。
「そろそろ片付けよっか」
「案外、食えちゃいましたね」
「ね、鴨のスモーク美味しかった」
半分は紙皿だからか片付けは早々に済ませちまえて、寝る支度をしていれば付けっぱなしのテレビからは新年を祝う声が聞こえる。
「虎治、明けました」
「今年も宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しくね……ふふふ。改めて言うとなんかこの新年の挨拶って妙な感じだよね」
千鶴さんは俺が贈った寝間着を着ていた。上下揃いの、洒落たやつ。
俺はごく普通の、その辺に売ってる黒の冬用の上下だ。
「とら、寝よ」
部屋の奥の、千鶴さんのベッドに招かれる。
「あ!!虎治の猫ちゃんお風呂上がりに見せて貰うんだった。背中の方、まだちゃんと見てない……」
「千鶴さん、あなたと言うお人は」
「え……あ。ああああこれ二度目だ……うわ……わたし、そんなつもりで言ったんじゃ」
「ないんですか?俺はてっきり今夜は姫初めをご所望なのだと」
「わあああああ」
二回目のやらかしにベッドの上でもんどりうっている千鶴さんの足先に軽く触れる。少し、冷えていた。
「千鶴さん」
びく、と反応をして引っ込めた足の先を追うようにベッドに上がった俺はそれでも……愛しても良いか、確かに千鶴さんに聞かなければならねえんだ、が。
「虎治」
「はい」
「今日、このまま……し、ても、良い?」
男が、女が、と言う時代じゃねえのは承知している。
「ええ」
すぐに返事をすれば安心したような気配に変わり、前回よりは緊張も緩いように感じた。なるべく痛みや苦痛を覚えさせないように手は尽くしたが、甲斐があったんだろうか。
「あと、やっぱり猫ちゃん見たい」
「背中の方」
「うん」
俺が脱いで背を向ければ起き上がった千鶴さんの指先が化け猫の背を撫でる。彫師の爺さん、腕前は随一だったが拘りが強く、気に入られたヤツとしか仕事をしないと後から兄貴分から聞いていた。
「かわいい……」
背後で呟く千鶴さんの声にぶる、と身震いをしちまった。
「とら、寒い?」
「いえ……」
心配をしてくれていると言うのに俺はふ、と笑いそうになっちまう。ああ、今夜もこんなに可愛い人を抱けるとは。
姫初めどころか、姫を暴いちまったのも俺で。
「千鶴さんも、寒かったら言うんですよ」
振り向きざまに、その身を押して。
俺が贈った寝間着を俺が剥いで、寒くならねえように素肌を少し毛布で囲ってやって。されるがままに、身を委ねてくれるから……ああ、千鶴さんはやわらけえなあ。
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