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10 お正月、どうしよっか
しおりを挟む日付は十二月三十日になった。
「とら、あとでドラッグストア行ってこの食器拭くペーパータオル、追加で買ってきた方が良いかも」
ガチャガチャ、ガヤガヤ、と騒がしい鷹宮一家の本宅。おかみさんから是非に、と言われて俺と千鶴さんは今夜、大掃除のあとに開かれる忘年会や来る新年の来客用の湯呑みや食器洗いに取り掛かっていた。極道者の新年は忙しいので内輪で何かするにゃ大晦日だと支度が大変になるからだ。親父も夜中から初詣に行かれる。
俺と千鶴さんは台所で一年、使っていなかったこのあと使う皿などを棚から引っ張り出して洗う。まず俺が洗い、千鶴さんが拭いて、重ねて置いておけるケータリングが良く使う黄色の番重に並べ置く。
「あと若い子たちのお菓子も買ってこよ。クッキーとかも好きなんだって」
台所と言ってもちょっとした料理屋の厨房みてえな場所。ステンレスの調理台が中央にあって、作業がしやすい。
この時期は挨拶に来る出入り業者も多く、菓子折りが多く届くが今どきの若い衆は口が肥えてると言うか洒落ているらしく、和菓子も食うらしい。馬鹿みたいに腹が減る時期だからか?とも思ったが今の奴らの思考は俺らとは違う。
粗方、洗い終わった俺も千鶴さんと並んで引き揚げて水を切っている湯呑みや食器を拭き始める。
「きっとおかみさんのご指導が良いんでしょう。結局のところ皿洗いになっちまった。このあとの飯もすっかり用意されていて」
「でもお客さん用のお茶菓子が分かるの私か虎治だけだから」
本宅に乗り付ける前にあらかじめ聞いていた足りない物の買い出しのリスト。それを千鶴さんと買ってから訪れてみりゃあ忘年会用の煮物や惣菜、若い衆に食わせる揚げ物は外注とのことでこのあと俺と千鶴さんが取りに行く。
「飲ませられねえ奴もいますし、見るからに食い盛りですから他に何か腹に溜まるモンでも……」
「ご飯もの、とか?あ、五目ちらしにするとかどう?うち、ガスの一升炊きだからご飯美味しいの」
「そう言えば親父も好物でしたね」
「そうそう。お父さんちょっと舌が若いって言うか、桜でんぶとか甘めの具材が入ってるのが好きで……お揚げに詰めておけば食べやすいかも」
千鶴さんが一人で住まう部屋には炊飯器がない。パックの飯で、それにふりかけを掛けて食っている。だが本当は、食事が好きなんだろう。俺と買い物に出る時、それらを食う時……千鶴さんは楽しそうだった。
与えられていた手仕事を終えた俺と千鶴さんはおかみさんにいなり寿司の提案をして諸々の買い出しに出る。まだ日差しはあるがじきにすぐ暗くなっちまう師走どき。
スーパーとドラッグストア、最後に惣菜を頼んであった小料理屋に寄った車内。黒塗りにゃ似つかわしくない段ボール箱いっぱいの菓子やら料理やら。定位置である左側の後部座席の千鶴さんも膝に買い物袋を置いて「虎治も自炊してるんだよね?」と聞いてきた。
「作ると言っても男の飯ですからね、有り合わせです」
「うーん……想像がつかない」
「そうですか?」
「と言うか、虎治の普段の生活が謎すぎる……私まだ、とらのこと何にも知らないや」
「じゃあそうですね……俺は酒が好きです」
「それはもう知ってる」
「良い酒を少しやりながらつまみを食って」
あなたを眺めているのが好きになった……なんてな。コンビニ酒だろうが何だろうが、千鶴さんを肴に飲んだ熱燗は美味かった。
ただここ半年、千鶴さんに付くようになって飲酒はかなり控えている。何か急な呼び出しがあった場合に備えてだったが完全な休み以外は酒を口にしていない。
「ねえ、とら……お正月、どうしよっか」
「どうしましょうかねえ」
「あのさ、とらが嫌じゃなかったらなんだけど」
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