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8 とらじ、ね? ※
しおりを挟む「ん……とら……っ」
俺は今、寝間着が脱げ掛かっている千鶴さんに背を預けて貰うように、背後から抱えるように座りながら抱いている。
正確にはまだ、手遊びだけだが。
「気持ち良いですか」
「ん、うん……っ、ふ……あ、あ」
そんなことくらい、聞かずとも分かりきっている。俺の指先は彼女の潤みに濡れているんだ。濡らしたのも俺で、引っ掻くように曲げた中指に千鶴さんはびくびくと震えていた。
「あ……っ、う」
「痛みは」
「大丈夫……で、も、っと、らじは」
「あー……まあ、俺は」
「そんな、っんん」
俺の心配よりもご自分のこの……ああ、なんて言ったら良いんだろうな。
「ひ、ん――んっ」
とりあえず口を塞いどけば良いか。
「んん、ぐ、んぅ」
いや、これはこれでヤバいな。
立場上、男性経験が無いと言った女性を抱くには覚悟と細心の注意が必要だったがこんなに濡らしちまって……後で脱がして洗わねえと。
「ふ、ぅ……っんん、ん゛――!!」
腕をタップされて顔を上げる。
「とらぁ……こんな、の……だめだよ……からだ、ちからがはいらにゃ……」
「刺激が強すぎましたか」
「だ、ってこのキス……おもってたのと、ちが」
「なんも違いやしませんよ」
俺の胸元から少し滑るように崩れた千鶴さんの体。軽く見上げながら「私、変じゃない?」と呟く声は経験の浅さから不安に揺れていた。
ひとつひとつを確かめるような男女の交わり。寝間着を開いて、乱して、暴いちまう俺の腕を胸に抱いた千鶴さんは「ごめんね」と言う。
「やっぱり重い、でしょ」
何を仰っているんだか。
「抱いてる女を正気にさせて、興醒めさせるなんざ男の恥だ」
「え、とら?」
「怖くはありませんか」
「それは……ない、けど……え、っあ、あ……っんん!!」
気が余所に行って少し緊張がゆるんでいた所に指を増やしてみれば案外、すんなりと入ってくれる。
ぐちゃぐちゃだな、と思いながらも腰が浮きそうになっているならば気持ちが良いんだろう。
「と、ら……っ」
「お嬢、いや……千鶴さん。痛かったら言うんですよ」
普段の千鶴さんはお一人でされていたのかは知らないが、どうにか上手いこと力が抜けねえか試みようとしているのは分かる。
「俺はね……面倒見が良いってンであなたのボディーガードをさせて貰ってるんです。だから重いだのなんだの……ふっ、こんなに軽い体で何を仰るんだか」
「とら、ちが……わたしは、そんな意味で言ったんじゃ……んぅぅっ」
「全部分かってますよ」
本当の俺は狡い男ですから。
心のどこかで、あなたを思っていたのに……言わせちまったしょっぺえ男です。
「あ、あ……とら、だ、め……」
「腹ん中よりも、まずはこっちの方が」
「い……っ、あ」
「イキそうだったら我慢せずとも」
「やだ、ゆびじゃ、だめ……っ、とらが、いい。とらじ、ね?」
おねがい、と懇願されて欲が痛いほどに熱をもつ。相手は経験がない。今夜はまず指先だけで終わらせようとしたが……ねだられちゃ仕方ない、のか。イッちまう寸前で手を離したからか千鶴さんは物欲しそうで……こりゃあクるな。
「ねえ、とら」
「なんですか」
パッケージを手にして男女の礼儀を装着しようかと思っていればごろんと自ら体勢を変えて俺と向き合うように起き上がった千鶴さんが視線を落とす。
「触っちゃ、だめ?」
「好奇心は猫をも……ああ、そう言えば千鶴さん、俺の墨を」
触れられて、いたずらに軽くしごかれでもしたら出ちまうんじゃねえか?と思って話題を変えようとした。
「ほんとに猫だ……しかもトラ柄の大きな猫ちゃん……」
肌着を脱いだ俺の胸もと。
和彫りの化け猫が胸から肩、背中へとのし掛かるように彫られている。頼んだ彫師の爺さんが奇をてらうクチで「虎治に虎を彫っちゃつまらねえだろうが」と俺に特注の図案を寄越してくれた。爺さんの実験台になれば安く上げてやるからやってみねえか、ってな。俺も当時はカネ、無かったし。
「千鶴さん」
俺の化け猫に気を取られている間にゴムを付けちまえばあとはもう。
「な、なんか……エッチだね」
「あなたの体を大切にしたいから、ですよ」
「うん……」
ありがと、と小さく言って俯いちまう千鶴さんの体をそっと押して……足を開かせる。恥ずかしいだろうから、あまり見てやらねえように俺も膝を進めて。
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