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6 硬派なとらじ
しおりを挟むまだ午後三時、ソファーに寝そべっているお嬢を眺めるように軽く洗い物をしていた俺は食べ掛けの物をまた皿に盛り付け直して後でお嬢が食べられるようにしておく。
暫くしてリビングに行けばソファーの上のお嬢は目蓋を閉じていた。どうやら腹がいっぱいのせいで睡魔に負けちまったらしい。
クリスマスの25日、このままお嬢一人を残して帰ることに後ろ髪を引かれるのは何故だろうか。お嬢が言うに、去年は会社の連中と飲みに出ていたらしいが今年、この後のご予定は入っていない。
「虎治、帰っちゃう……?」
「お嬢……寝るようでしたら」
「そばにいて」
おねがい、の声はあまりにも小さかった。
それにお嬢の頬が赤い。
「今日だけ……ね、とら」
「しかしお嬢」
「……ちづる、私は千鶴よ」
すがるような瞳に、俺の眉根が寄る。
「虎治、これは全部あなたの、仕事だと……だから、ね?」
お嬢の……千鶴さんの細腕が俺に伸びる。
「今日だけ、今だけ……抱き締めさせて」
「それが親たるあなたのご命令ならば」
体を屈ませて、それから俺と千鶴さんは狭いソファーの上で――。
気が付けば外は真っ暗になっていた。
そして千鶴さんはラグの上に落ちていた。俺には毛布を掛けてくれて……一応、自らもベッドから掛けるモンを引っ張ってきたようだったがクッションを枕に地べたに転がっている。
「ッ、すんません!!」
「んーん……虎治、気持ちよさそうに寝てたから……私も、すっかり寝ちゃった」
「俺としたことが……お嬢に床で……」
「あんなことしたのに?」
「し、っ……お嬢、それは語弊が過ぎますよ」
「ふふふ。下からなら虎治の寝顔がばっちり見られるしね」
お嬢は笑っている。
俺とお嬢は別に、何もなかった。言われるがままに従った俺はお嬢を抱いて横になって、いつの間にかソファーの下に落としていた。ただそれだけ。
「でも、なんだろ……虎治みたいな人、虎治より良い人なんて探したって見つからない、かな……」
「それは」
「私はね、虎治のことが大好き」
俺を見上げるお嬢は「泊まっちゃえば良いのに」と言う。
「……無礼講ってやつですか」
「クリスマスだもん」
「それなら酒、買いに行って良いですか」
「あ、それなら私も行く!!」
お嬢、いや……千鶴さん。男が一人で酒を買いに行くと言う言葉の本当の意味をお分かりに……まあ、良いか。万が一のためだ。そもそもコンビニなんかじゃ今日あたり、売り切れてんじゃねえのか?と思いつつも無かったら無かったで、良い。俺さえ我慢すりゃあ良いだけのこと。
「上だけ着替えるからちょっと待ってて」
一人の女性からの告白を受け流そうとしちまう理性と、ひた隠していた千鶴さんへの感情をさらけ出しちまいたくなる衝動の板挟み。
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いよいよ俺も腹をくくる、か。
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