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5 妙な気分になっちまう

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 かくして俺はお嬢と12月23日の夜を過ごす。
 恋仲の男と女が過ごすように、飯を食いながら、少し酒を飲みながら外食先では出来ないような私的な話を交わして……。

 一日またいで25日の昼、俺はすっかりお嬢の部屋にいた。もとよりこの日はお嬢からリクエストをされ、見繕っていたケーキを引き取りに行ったその足。今日は偶然にも休みだったお嬢はやはりあのタオルみてえな寝間着で俺を出迎える。下は一応、ジャージのようなロングスカートをはかれていた。

「お嬢、寒くねえんですか……お嬢?」
「え、あ、ううん。虎治がコート着てるってことは外、かなり寒いんだ」
「暖冬とは言え冬ですからね」

 お邪魔します、と上がらせて貰えばいつもと少し部屋の雰囲気が違うような気がした。

「今日は朝から大掃除してたんだ」
「ああ、だから」

 少し見慣れた部屋の中。ラグの上にはクッションが二つ、それぞれ対面に置かれていた。
 それにテーブルの向きがテレビを流し見できるように向きも変わってる。

「クリスマスパーティーしよ」

 準備したんだ、とお嬢は言う。

「実家ではおかず作ってたからね、味はまあまあ保証する」
「そう言やおかみさんもそろそろ晦日みそかと正月の準備でお忙しいでしょう」
「でもお父さん、虎治ももちろん知ってるだろうけど外回りでわりといないから……部屋付きの子たちと結託して既製品を詰めただけの洋風おせちにするって言ってた。それに今日はファストフードのチキンが注文してあるから向こうは向こうでパーティーするんだって」
「時代ってやつですね」
「大体、お父さんですら会食疲れになっちゃうし。決まりきった和食なんざ見たくもねえ、とか去年言ってたよね」
「確かに」

 俺は手にしていたケーキが入っている方じゃない紙袋の渡しかたがイマイチ分からず、それなら先に渡してしまおうとお嬢に「例のブツです」と差し出す。

「本当に買ってきてくれたの?」
「それはお嬢が……」
「大丈夫だった?」

 多少はサーチをした。
 お嬢くらいの年齢の女性が選ぶと言う、あールームウェア。結局良く分からずにカジュアルな服屋が入っているデパートに赴いて店員に事情を説明した。クリスマスプレゼントなら限定のラッピングが、と言われるがままだったが……。

「虎治、ありがとう」

 ふふ、と笑うお嬢を見たら苦労なんざ一瞬で吹き飛んだ。

「うわー虎治がパジャマ買ってくれた……っふふ、どうしよ、すごい嬉しい」

 開けて良い?と問われて否と返すヤツはあまりいないだろう。頷けば紙袋を抱えたお嬢はさっそく、ソファーに座って包みを開く。丁寧だな、とテープの封を剥がし、包装紙を畳んで。

「セットになってるやつだ」
「ええ、丈の長い上っ張りは他のお持ちになっている物の上からでも。あと自宅で洗えるヤツが良い、と」
「そう、ウールだとお洒落着洗濯になっちゃうからフリースの……軽くて手触りも良いし、可愛い」

 ドレッサーの前まで行って羽織って見せる無邪気なお嬢に俺はなんだか……なんだろうな。
 泣く子も黙る鷹宮一家の一人娘はごく普通の独り暮らしをしていて、ご自分の背景もよく理解されているせいで……俺は勝手に色々と考えちまう。

「汚しちゃうといけないからまたこれは明日」

 ベッドの上に移動させられた俺からのクリスマスプレゼント。そしてそれはまだ、ケーキと言う形でもあるわけで。

「よしよし、虎治ならきっと素敵なクリスマスプレゼントを贈ってくれるって思ってたから私も気合い入れてサラダとかおつまみ作ったの」

 袖を捲るお嬢が意気揚々とキッチンへ向かう。
 ならば俺も、とコートとジャケットを脱いだシャツの袖を捲る。

「一昨日買ったやつの残りはもうワンプレートにしてあるんだけど今からソーセージも茹で焼きにするから」
「ケーキはどうしますか」
「……本当は先にちょっと食べたい」
「無礼講ってやつですね」

 お嬢は俺が買ってきたケーキの箱に興味を示し、食事の前に味見をひと口。

「ブッシュ・ド・ノエルだ」
「普通のケーキではありきたりだと思ったんで切り株みてえな方を。チョコレート部分は甘さ控えめ、大人向けに洋酒が効いているそうですよ」
「虎治が選んでくれたんだ」
「ええ、一応……」

 あまりにもお嬢が嬉しそうで、そんなお嬢とキッチンに並んで立っていると……妙な気分になっちまう。

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