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7章
近づくお別れ
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ピザパーティーがお開きになってから、私と風斗は畑の水やりに来た。
すばるは先生と一緒に、調理室の最終的な片付けに戸締りと火の元の確認をした後、鍵を返しに職員室へ行くらしい。
「今日は楽しかったな」
風斗がホースで水やりをしながら、クロリバ語でつぶやいた。
「はい……」
空を見上げると、西の空がオレンジだ。
まだ青が大半だが、オレンジと青が混じり合って、ずっと見ていられるほどきれいだ。
ここに着陸する前に見た、地球の青さをふと思い出す。
「クロリバ星もいつかこんな美しい星になればいいのに……」
ボソリとつぶやくと、風斗が私の頭にポンと手を置いた。
「それをこれから実現するのが、おれたちの仕事だと思わないか?」
「そうですね……星に戻ったら、たくさんやることがあります……」
星に戻る……か。
明日で一学期が終わりで、あさってから夏休みだ。
私たちが、任務で地球にいる期間は夏休みに入るまで。
明日には風斗……リーダーと一緒にここを発つ。
この学園とも、さっき一緒にピザを食べたみんなとも、それに……すばるともお別れだ。
クロリバ星に戻ったら、もう地球に来ることはない。
すばるから植物のことを教えてもらったり、たわいもない話をすることもなくなる。
……さみしいな。
どうしてか、急に鼻と喉の奥が熱くなってきて、胸がきゅうっと絞られるみたいに、苦しくなる。
なんでこんな気持ちになるんだろう?
すばるはただ、任務にかかわる人物ってだけで、もう、地球を離れれば関係がない。
なのに。
すばると離れるのが、さみしい。
きゅっとくちびるを結んだら、頭の上にのっていたリーダーの手がリズムよく弾んだ。
「リィ。ここにいる期限は明日までだが」
リーダーの言葉にドキッと胸が鳴る。
そっと見上げると、リーダーが難しい顔を解いてニッと笑った。
「おれたちは、まだまだ勉強不足だ。このまま帰っても、クロリバ星で植物を育てられる充分なデータと実践する力がない。だから」
リーダーが私の頭から手を離して、ホースの向きを変え、宙に水を放った。
水しぶきの中に、キラキラといろんな色が見える。
「もうしばらくここで勉強させてもらおう、リィ」
ここで……勉強?
リーダーの言葉をもう一度頭の中で唱えて、見上げる。
「あの……それって、まだ地球にいて任務を続けるってことですか?」
「あぁ。組織の仲間からももう少し地球で調査してほしいと頼まれている。なんだ? 早くクロリバ星に帰りたいのか?」
「い、いえ、そういう訳じゃ……」
ドキドキと胸が高鳴ってくる。
まだいれるんだ。地球に。すばるの近くに。
不思議だ。
さっきまで暗く沈んでいた気持ちが、ふわふわと浮き上がってくる。
「しっかり勉強しろよ、リィ。頼りにしてるからな」
「……はい」
力強く返事をすると、リーダーが緑の瞳をふわっと細めた。
「おーい、風斗! 里依ちゃん」
校舎の方から声がして、すばるがかけてきた。
「二人とも、水やりありがとう」
「あぁ。すばるの方はもういいのか?」
「うん。終わったよ。家庭科クラブの先生が他の先生にもピザを持っていったみたいで、職員室に行ったら、たくさんお礼を言われたよ。おいしかったって」
「そうか。よかった」
うれしそうなすばるに、こちらも気持ちがポカポカしてくる。
自分たちが育てたものが他の人にも喜んでもらえるなんて、うれしいものだな。
「片付けして一緒に帰ろう」
すばるが言うと、風斗が私にホースを渡してきた。
「すばる、悪いが先に帰る。用事があるから」
「……用事って?」
気になってきくと、風斗が耳元に顔をよせてきた。
「薫教授に伝えてくる。もうしばらくここにいますって」
小声の風斗に、こくんとうなずいた。
そうか。すばるが家に帰る前に、薫教授には報告しておきたいもんな。
「じゃあ」
風斗が手をあげて、校舎の方へと歩いていく。
「里依ちゃん、ホース片付けたらぼくたちも帰ろう」
「そうだな」
すばるにうなずいて、水を止めたホースをくるくると巻きつけた。
すばるは先生と一緒に、調理室の最終的な片付けに戸締りと火の元の確認をした後、鍵を返しに職員室へ行くらしい。
「今日は楽しかったな」
風斗がホースで水やりをしながら、クロリバ語でつぶやいた。
「はい……」
空を見上げると、西の空がオレンジだ。
まだ青が大半だが、オレンジと青が混じり合って、ずっと見ていられるほどきれいだ。
ここに着陸する前に見た、地球の青さをふと思い出す。
「クロリバ星もいつかこんな美しい星になればいいのに……」
ボソリとつぶやくと、風斗が私の頭にポンと手を置いた。
「それをこれから実現するのが、おれたちの仕事だと思わないか?」
「そうですね……星に戻ったら、たくさんやることがあります……」
星に戻る……か。
明日で一学期が終わりで、あさってから夏休みだ。
私たちが、任務で地球にいる期間は夏休みに入るまで。
明日には風斗……リーダーと一緒にここを発つ。
この学園とも、さっき一緒にピザを食べたみんなとも、それに……すばるともお別れだ。
クロリバ星に戻ったら、もう地球に来ることはない。
すばるから植物のことを教えてもらったり、たわいもない話をすることもなくなる。
……さみしいな。
どうしてか、急に鼻と喉の奥が熱くなってきて、胸がきゅうっと絞られるみたいに、苦しくなる。
なんでこんな気持ちになるんだろう?
すばるはただ、任務にかかわる人物ってだけで、もう、地球を離れれば関係がない。
なのに。
すばると離れるのが、さみしい。
きゅっとくちびるを結んだら、頭の上にのっていたリーダーの手がリズムよく弾んだ。
「リィ。ここにいる期限は明日までだが」
リーダーの言葉にドキッと胸が鳴る。
そっと見上げると、リーダーが難しい顔を解いてニッと笑った。
「おれたちは、まだまだ勉強不足だ。このまま帰っても、クロリバ星で植物を育てられる充分なデータと実践する力がない。だから」
リーダーが私の頭から手を離して、ホースの向きを変え、宙に水を放った。
水しぶきの中に、キラキラといろんな色が見える。
「もうしばらくここで勉強させてもらおう、リィ」
ここで……勉強?
リーダーの言葉をもう一度頭の中で唱えて、見上げる。
「あの……それって、まだ地球にいて任務を続けるってことですか?」
「あぁ。組織の仲間からももう少し地球で調査してほしいと頼まれている。なんだ? 早くクロリバ星に帰りたいのか?」
「い、いえ、そういう訳じゃ……」
ドキドキと胸が高鳴ってくる。
まだいれるんだ。地球に。すばるの近くに。
不思議だ。
さっきまで暗く沈んでいた気持ちが、ふわふわと浮き上がってくる。
「しっかり勉強しろよ、リィ。頼りにしてるからな」
「……はい」
力強く返事をすると、リーダーが緑の瞳をふわっと細めた。
「おーい、風斗! 里依ちゃん」
校舎の方から声がして、すばるがかけてきた。
「二人とも、水やりありがとう」
「あぁ。すばるの方はもういいのか?」
「うん。終わったよ。家庭科クラブの先生が他の先生にもピザを持っていったみたいで、職員室に行ったら、たくさんお礼を言われたよ。おいしかったって」
「そうか。よかった」
うれしそうなすばるに、こちらも気持ちがポカポカしてくる。
自分たちが育てたものが他の人にも喜んでもらえるなんて、うれしいものだな。
「片付けして一緒に帰ろう」
すばるが言うと、風斗が私にホースを渡してきた。
「すばる、悪いが先に帰る。用事があるから」
「……用事って?」
気になってきくと、風斗が耳元に顔をよせてきた。
「薫教授に伝えてくる。もうしばらくここにいますって」
小声の風斗に、こくんとうなずいた。
そうか。すばるが家に帰る前に、薫教授には報告しておきたいもんな。
「じゃあ」
風斗が手をあげて、校舎の方へと歩いていく。
「里依ちゃん、ホース片付けたらぼくたちも帰ろう」
「そうだな」
すばるにうなずいて、水を止めたホースをくるくると巻きつけた。
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